「高校生みんなの夢AWARD4」、「離島物流にイノベーションを」がグランプリに

2023.08.17 社会

高校生が社会課題を解決するビジネスモデルを発表する「高校生みんなの夢AWARD4」が8月8日、国立オリンピック記念青少年総合センター(東京・渋谷)で開かれた。高校生は、事前学習コンテンツである「ソーシャルビジネス学習プログラム」を通じて、社会課題やビジネスの仕組みを学んできた。エントリー608人のうち、10人がファイナリストとして登壇。グランプリには、水上飛行機で離島の物流課題の解決策を提案した保坂詩音さん(郁文館高等学校3年)が選ばれた。

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「高校生みんなの夢AWARD」は、未来を担う高校生が社会問題の解決と自分の夢を重ね、起業家精神を育むことを目的としたビジネスモデルコンテストだ。

 事前学習コンテンツである「ソーシャルビジネス学習プログラム」は、社会課題を解決する起業家の事例に触れ、ビジネスの仕組みを理解し、夢をかなえる力を培うことを目指す。

 主催する公益財団法人みんなの夢をかなえる会は、受賞した高校生の事業計画や夢と関連する国内外研修旅行など、夢にまつわる応援サポートを行う。

 グランプリには、ビジネスモデルに関連する国内外の研修旅行券20万円分、準グランプリには10万円分が贈られた。

水上飛行機で日本の島をつなげる

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審査の結果、グランプリに選ばれたのは、「離島物流にイノベーションを」を提案した郁文館高等学校3年の保坂詩音さんだ。水上飛行機を用いた新たなモビリティで、離島物流の課題を解決するビジネスアイデアを発表した。

保坂さんは、日本に14000もの離島が存在するにもかかわらず、そのほとんどが空港設備を持たず、輸送を船のみに頼っている現状について分析した。これは、観光産業の不活性化や物流の脆弱さ、人口流出を招いているという。

保坂さんの案では、離島を路線バスのように周回することで効率性を上げ、EV化によってコスト削減を目指す。機内のインテリアを取り外し可能にし、貨物や患者の輸送などの医療逼迫にも大きく貢献する。

保坂さんは「このような栄誉な賞をいただけて光栄だ。事前合宿の際に、ファイナリストの皆さんのクオリティーの高いプレゼンテーションに圧倒された。そんな皆さんと一緒にプレゼンの練習を行う機会をいただけたことに感謝している。私は、この水上飛行機で日本の運送にイノベーションを起こしたい」と話した。

■里庄町の特産物「まこもたけ」で牛の飼料づくり

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準グランプリには、おかやま山陽高等高校3年の園田智也さんが選ばれた。園田さんは、岡山県里庄町の特産物である「まこもたけ」を、耕作放棄地を活用して栽培し、牛のエサにするビジネスを考案した。

まこもたけは、イネ科の多年草「まこも」の茎に黒穂菌がついて肥大化した部分で、食物繊維やビタミンが豊富なスーパーフードだという。園田さんは、まこもたけ収穫後に廃棄される茎葉部を発酵させて、牛用の無農薬サイレージ(飼料)を提案する。

7.5haの耕作放棄地で、まこもたけを栽培すると、年間37.5トンの飼料(約20頭分の粗飼料)が生産できる。耕畜連携や兼業農家への展開も視野に入れ、より持続可能な農業も検討する。

園田さんは、「準グランプリをいただけたことは、私にとって大きな経験となったと同時に、『まこもたけ』を全国の皆さんに知ってもらえる機会になった。このビジネスモデルで地域農業の持続可能な発展を目指し、農業・農村の持つ力で、日本を支えていきたい」と話した。

■「廃棄おから」から健康非常食を

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沖縄県立那覇商業高等学校3年の上原杏樹さんは、廃棄おからで健康非常食を作るというビジネスアイデアを提案した。

管理栄養士を目指す上原さんは、栄養に関することで「何かできることはないか」と考えるなかで、高タンパクで高食物繊維、低糖質の日本発のスーパーフード「おから」に着目した。豆腐を作る際に出たおからの食品ロスを減らすことと、災害対策の両立を目指す。

上原さんは、廃棄おからを使った「マッシュポテトテイスト」を考案。試作品では、真空パウチを使い、長期保存を可能にした。食べなれた料理にすることで、古いものの期限が切れないうちに食べて新しいものに変えていく「ローリングストック法」を進める。

上原さんは、「いつ起こるかわからない自然災害に、みなさんのごはんの1品に、この廃棄おからを使った健康非常食で備えてみませんか」と呼びかけた。

■陸前高田に「新たなにぎわい」を

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岩手県立高田高等学校2年の佐々木淳哉さんは、夢でもある「陸前高田市に賑わいをつくる」ため、けせんシーファームセンターの設立を目指す。

2021年に三陸道が全線開通し、仙台からも約2時間と近くなり、仙台圏からの集客も見込まれる。しかし、通過車両が増える懸念があり、市にどう降りてもらえるかを考えた。そこで、青森県八戸市にある「八食センター」を参考にして、ビジネスモデルを考えた。

陸前高田市市内小友地区にある広大な干拓地を活用し、「けせんシーファームセンター」を作る。そこでは当市自慢の海産物・農産物を手ごろな価格で購入できるほか、長時間滞在できる場所もつくる。

小友地区に今年オープンするキャンプ場の宿泊者には、BBQなどの食材を購入できる場所として連携する事により、キャンプ場とのWin-Winの関係となり、地域への貢献度も上げる。

「沢山の人々が恩恵を受ける形となり、『三方よし』となること間違いない」と力強く語った。

■農業用マルチシートを天然素材に

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京都先端科学大学附属高等学校3年の七瀧舞華さんは、生産者にも環境にも配慮した農業用マルチ資材の普及を目指す。

「野菜を栽培するときの最大の敵は何だと思いますか。害虫や病気でしょうか。もちろんその対処も大変ですが、私は雑草だと思う」

七瀧さんは、プレゼンテーションで、こう投げかけた。一般的に使われているビニールマルチは、回収費が高騰しているほか、処理に負担がかかっているという。

そこで、撥水性や耐久性を向上させた紙マルチをビニールマルチの代わりとして普及させるビジネスを提案した。滋賀大学やメーカーの協力を得て、紙マルチに柿渋を塗装し、撥水性や耐久性を向上させながらも、土にすき込むことで分解する商品の製造・販売を目指す。

七瀧さんは「全て天然素材であり、栽培したあと土にすき込むことで農作業の負担軽減につながる」と魅力を説明する。

「柿渋に含まれるカキタンニンは、ビニールに代わる史上最強の天然資源。柿渋紙マルチで世界の農業の常識を変えたい」と訴えた。

「政治レシートマシーン」で投票率を上げる

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頌栄女子学院高等学校2年の岩田真奈さんは、「住み続けられる日本」の実現に向け、政治参画を推進するため「政治レシートマシーン」を考案した。

2021年の衆議院議員総選挙では、10代から30代の投票率は50%以下だった。危機感を覚えた岩田さんは、レシートのように政治家のプロフィールや政策が印字されて出てくる機械を考案した。2019年4月にロンドンの駅構内に設置された短編小説の自動販売機を参考にした。

選挙に立候補した候補者が、登録料を払うというビジネスモデルだ。クーポン付きレシートや電子レシートの導入なども視野に入れ、環境に配慮した設計を検討する。

岩田さんは「『誰に投票すればいいか分からない』『政治に興味ない』という問題を解決し、投票率を上げることで、より良い日本社会を実現させたい」と語った。

■介護と保育の両立運営で補い合う

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茨城県立水戸商業高等学校3年の髙橋玲奈さんは、人材が不足している介護士と保育士を互いに補い合うビジネスモデルを発表した。

日本政府は、少子高齢化の対策の一つとして、保育園を増やす対策を打ち出したが、保育士の人材不足や賃金の低さなどの課題は未だ解決されておらず、保育士の負担は大きいままだ。

そこで、髙橋さんは、保育園と介護施設を同じ敷地内に建てるという案を提案する。子どもたちはお年寄りに活力を与え、お年寄りは子どもたちに遊びや知恵や教える。一緒に遊んでくれる人が増えることで保育士の負担は減り、介護士の助けにもなると考えた。若い人たちにもアルバイトとして加わってもらい、経営の安定化を目指す。

高橋さんは「シニアをアクティブシニアにして、社会のシナジーを向上させることで、全世代が生き生きと過ごせる日本を目指します」と意気込みを語った。

■カキ養殖用パイプをバイオマスに

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宮城県立岩ケ崎高等学校3年の三浦透馬さんは、カキ(牡蠣)養殖に使用するまめ管を植物由来のバイオマス素材へ代替するアイデアを披露した。

まめ管とは、牡蠣の子どもを植え付けたホタテの貝殻同士の距離をとるために使われる道具だ。大体がポリエステル素材で出来ており、波や風の影響ですぐに破損しやすく、海洋生態系に深刻な影響を与えているという。

そこで、ポリ乳酸を製造するユニチカ社などと連携し、バイオマス素材でまる管を製造する。ポリ乳酸は生分解性を持ち、耐久性にも優れる。いずれはブイやロープなどの漁具にもポリ乳酸素材を導入していく。

三浦さんは「豊かな自然、美しい海、生物多様性を次の世代に残していきたい。だから私は行動します」と力強く語った。

■「コンポスト」を理科教材に

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茨城県立竹園高等学校2年の樋野葵さんは、コンポストを使った環境教育を提案する。

生ゴミの燃焼には強い火力が必要であり、二酸化炭素の排出が多くなるという課題がある。そこで注目されているのが、生ごみなどの有機物を微生物の働きで堆肥化するコンポストだ。しかし、匂いや虫などを理由に、日本でコンポストを行うのは約8.8%にとどまる。

そこで、理科の授業のコンテンツとしてコンポストを販売するビジネスモデルを考案した。「コンポストン」と名付けられたコンポストは、2つの箱で構成されている。2つの箱があることで、入れる野菜や混ぜる回数を変えて対照実験ができ、子どもたちへ実験の楽しさを伝えられるだけではなく、環境保全にも貢献できる。

樋野さんは「コンポストンで子どもたちに理科の面白さを伝え、その『楽しい』を原動力に持続可能性についても伝えていきたい」と語った。

■アラブ人を日本に呼び込む「NAJOOM ALSHARQ」ツアー

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渋谷教育学園幕張高等学校2年の武藤慶之介さんは、アラブから観光客を呼び込み、日本を活性化する施策を提案する。日本に来たいアラブ人が多いにもかかわらず、訪日したことがあるアラブ人は4%にとどまっている。

10年前にアラブに住んだ経験がある武藤さんは、なぜアラブ人が日本に来ないのか、疑問を持った。礼拝場所やハラールレストランなど、日本では宗教的配慮が整備されていないことが多い。

そこで、武藤さんは、アラブ人向け日本観光ツアーサービス「NAJOOM ALSHARQ(東の星)」を考案した。旅程はカスタマイズ型だ。アラブの企業が集客をし、日本のレストランやお土産店が紹介料を払うといったパートナーシップを組む。日本では、アラブ人の集客に特化したサービスは全くないので、競合を回避でき、日本経済の成長も期待できると考える。

武藤さんは「観光のバリアを無くすことで不平等を無くし、ムスリム観光客が増えることで日本の経済が大きく成長します」と語った。

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渡邉美樹・審査委員長は、「今回はグランプリ、準グランプリともに満場一致だった。『好き』が高じて発表以外のことも調べ上げている姿勢が審査員の心を動かした。これからも様々な問題にアンテナを立て、関心を持ち続けてください。それによって、社会が少しずつでも良くなっていく循環に期待したい」と総評した。


社会との関わりや、人や社会、地球を元気にする取り組みなどを紹介します。