町工場の未来を考える戸松裕登さんが「みんなの夢AWARD14」グランプリに

2024.03.18 社会

SDGsに貢献するビジネスプランコンテスト「みんなの夢AWARD14」が3月12日に開催され、ファイナリスト7人が社会課題を解決する事業のプレゼンテーションを行った。グランプリには、「親が子に継がせたいと思える町工場を実現したい」と力強く訴えた、戸松裕登さんが輝いた。震災後建設された防潮堤を世界に誇れる文化資産にするため活動する髙橋窓太郎さんが、準グランプリと応援賞のダブル受賞を果たした。

「みんなの夢AWARD14」のファイナリストたち

「みんなの夢AWARD14」のファイナリストたち

「みんなの夢AWARD」は2010年から、公益財団法人みんなの夢をかなえる会が主催している。社会課題をビジネスで解決する社会起業家の発掘・育成・支援が目的だ。「共感性・社会性」「事業性」「プレゼンテーション」の3点を審査基準にしている。今大会から、会場の投票による「応援賞」が導入された。

 グランプリには最大2000万円の出資交渉権と賞金100万円、準グランプリには賞金50万円が贈られる。すべてのファイナリストは、希望する協賛企業からの支援も受けられる。

 審査委員は、渡邉美樹・みんなの夢をかなえる会代表理事(ワタミ代表取締役会⻑兼社⻑)、澤上篤人氏(さわかみ投信創業者)、藤野英人氏(レオス・キャピタルワークス代表取締役会長兼社長・最高投資責任者)が務めた。

子に継がせたいと思える製造業に

「担い手が減少している今、日本を代表するモノ作り産業が持続可能な産業に変わることで日本の未来も変えられる」。こう熱く訴えかけたのは、「みんなの夢AWARD14」グランプリに選ばれた、戸松裕登さんだ。

創業70年、機械加工の町工場・丸菱製作所(愛知県春日井市)を営む戸松さんは、加工技術のフリマサイト「アスナロ」を立ち上げた。同サイトでは、町工場と発注者が工程単位で商談できるスポット取り引きを行う。

例えば、閑散期に自社の技術を商品として登録すると、その技術を必要としているその他工場や発注者からのピンポイント受注が可能になり、閑散期と繁忙期の受注量の差を埋めることができる。

日本のモノづくりの現場は逼迫している。日本政策金融公庫の調査によると、製造業の49%が廃業を予定し、そのうちのほとんどが「親が子に継がせたくない」という理由からだという。「急に仕事が減る」「5年後が分からない」「価格が安い」――。このような実態から新たな設備などの投資に踏み込めず、ここ20年で町工場は半減した。

問題なのは、メーカーごとに構成されたピラミッド型のサプライチェーンの在り方だという。町工場の多くは、主要顧客の売上げが全体の売上げの9割を占める、一本足経営だ。

戸松さんは2年間で約500社の町工場を周り、「アスナロ」登録社数は400社に上る。3年以内に地元愛知県で事業化し、5年以内に全国展開を予定する。

「事業のきっかけは息子が生まれたことだった。今の工場を息子に継がせるべきか、その答えはまだ出ていない。しかし、息子が継ぎたいと思ったときに、親が継がせたいと思える業界にするため、製造・加工業者が直接評価される社会の実現をめざしたい」と訴えた。

巨大な防潮堤を世界に誇れる文化遺産に

準グランプリと応援賞のダブル受賞を果たした髙橋窓太郎さんは、「50年後の世界遺産を一緒につくりませんか」と会場の観客に呼びかけた。

東日本大震災で最大20メートルの津波の被害を受けた岩手県石巻市雄勝町には、現在、高さ10メートル、長さ3.5キロメートルの防潮堤が建設されている。髙橋さんは、灰色の殺風景な防潮堤を色彩豊かで人々が集う場所に変えるため、「海岸線の美術館」を考案した。

きっかけは、会社の研修で訪れた雄勝町で、「美しい風景が失われた」「街を愛せなくなった」という地元の声を聞いたことだった。芸術一家で育ち、東京藝術大学・建築学科で芸術を学んできた髙橋さんは、「この壁を変えられるのは僕だけだ」と会社を辞め、美術館の製作に乗り出した。

同美術館は、2022年11月に開館し、現在は6つの壁画作品が健在する。これらの作品は、この活動に共感してメンバーに入った壁画制作アーティストの安井鷹之介さんによるものだ。毎年、地元の学校と一緒に壁画をつくる「壁画プロジェクト」も行ってきた。

様々な人の協力を得るため、株主ならぬ「壁主」事業も始めた。防潮堤は約7万のコンクリートパネルが合わさってできており、その1パネルの壁主になれる権利を販売する。壁主には、証明書の発行やアクリルレプリカが贈呈される。すでに180人が壁主に登録済みだ。

このほか、壁にアートを施した、空き家のリメイクホテルやサウナ、カフェ事業を展開し、美術館の運営を行っていく予定だ。

段ボールの家具で新しい選択肢を増やす

段ボールでつくる家具の製造・販売を行うカミカグ(東京・墨田)代表の和田亮佑さんは、200枚の段ボールを買い込み、手張りで接着するところから事業を始めた。

近年多く出回っている組立式の家具のリサイクル率はたった9%と、処分が煩雑で、環境負荷が高い。それに対し、日本の段ボールのリサイクル率は98%で、再資源化での木パルプ使用量は、一から作るのに比べて10分の1程度で済むという。

なぜこれだけのポテンシャルがあるにも関わらず、段ボール家具が普及しないのか。和田さんは、「意匠性が乏しいためだ」と主張した。

現在、段ボール家具は段ボール屋がつくっており、デザイナーや家具屋の手は入っていない。折りや差し込みなどの専門的な領域が多い段ボール業界にはデザイナーが入り込むのが難しい現状があるという。

これらの課題を解消するため、カミカグでは段ボール3Dプリントシステム「LAMINATE(ラミネート)」を独自開発し、一般のデザイナーでも自由に家具のデザイン設計ができるようにした。最近発売した「cat cellar(キャットセラー)」は、makuakeでデイリーランキング1位に輝いた。

「ペーパーレス化によって苦しむ紙業界との協業体制も構築することで、業界減少の解決にも役立ってきた。私たちがつくっているのは家具ではなく、未来の新しい選択肢だ」と話した。

途上国の農作物を美味しく、安全に先進国へ

タベテク(東京・千代田)は、常温であっても薬剤を一切使わずに農作物の鮮度保持を行うプラズマ殺菌の会社だ。同社代表の田苗眞代さんは、「この技術を用いて、途上国の果物を美味しく、安全な状態で先進国に届けたい」と夢を語る。

田苗さんは以前、歯科衛生士として働いており、医療器具を殺菌するための薬品をこぼしたことがあった。薬品を吸い込んで数秒で頭痛と吐き気に見舞われたという。その薬品が農薬としても使用されていることを知り、農薬を使わない方法を社会実装しなければならないと思い立った。

「国が認めた農薬だから安全だと思うかもしれないが、農薬は様々あり、複数種類合わさった場合の検査はなされていない。輸入果物のほとんどは化学薬品である防腐剤でスプレー処理されている」と田苗さんは語る。

これにとって代わるのが、プラズマ殺菌だ。プラズマは人工的につくられた雷で、九州大学などが効果や安全性を証明済みだ。

柑橘類の輸出大国であるトルコの企業とともに実証実験を始めた結果、無処理のものに比べ、プラズマ処理を行った果物の保水率は2倍高いことが分かった。同装置は全自動で1日1~2時間の稼働で良いため、コスト面にも優位性が認められた。

2024年4月、初となるプラズマ処理したトルコの柑橘果物1000㎏を日本へ輸入する。

見える人と見えない人が、同じ景色を楽しめる社会に

生まれたころから全盲の西田梓さんは、「私は旅行が大好きだ。目が見えない人の中にはお金を払ってでも旅行に行きたいと思っている人が多いのに、世の中には目が見えない人に配慮したサービスが少ない」と社会への違和感を訴えた。

西田さんは普段、目が見えない人にパソコンの使い方を教える職業指導員として働く。全国には視覚障がい者手帳を発行している人が約31万人、目が見えにくいと感じている人は160万人いるという。

視覚障がい者が旅行に行く場合、ガイドヘルパーが必要だ。つまり、視覚障がい者が旅行に行った際にかかるお金は一般の人の約2倍かかり、経済効果が高い。西田さんはここに目をつけ、視覚障がい者がそれぞれの障がいの程度に合わせて旅行をプランニングできる情報提供サイト「another eyes」の立ち上げを決めた。現在、株式会社設立へ向け、準備中だ。

サイトでは、旅が好きな視覚障がい者から利用しやすかった施設や盲導犬が入店できるお店かどうかなどの情報を集め、ガイドヘルパーへのアクセスや交通チケットの予約代行なども同サイトから直接できるような仕組みを構築する。有料会員ページも設け、ソーシャルスキル講習会やお出かけイベントも実施していく予定だ。

このほか、ガイドヘルパー育成のための研修や目の見えない人がどのようなサービスを求めているのかについて講演会などを通して積極的に伝えていくという。

西田さんは、「視覚障がい者がもっと街へ出て、旅行を楽しめるようになること、それが通常の街の景色になることをめざしたい」と締めくくった。

プレゼンテーションは夢を実現する大きな1歩に

去年開催された「みんなの夢AWARD13」を観客席で見ていた中学3年生の髙橋春帆さんは、アワードの舞台に立つという夢を叶えた。この夢を叶えるため、3200人の前でスピーチを行うなど、1年間数多くの実践を踏んできたという。髙橋さんは、「中高生のプレゼン教育の革新」について伝えた。

「プレゼンは単なるスピーチではない。プレゼンは私たちに勇気を与え、聴衆を動かす力がある」と髙橋さんは力強く語る。

最近の保護者へのアンケートでは、親が小学生に身に付けさせたい力の第2位には「プレゼンテーション能力」がランクインしており、学校でのプレゼンの機会も増えた。しかし、学校の先生がプレゼンについて学んできているわけではなく、中高生はプレゼンに悩みを抱えているという。

伝え方教育を展開しているカエカ代表の千葉佳織さんやプレゼンテーション協会の前田鎌利さんなどの専門家の協力のもと、髙橋さんは中高生にプレゼン教育を行う「伝える学び舎」で、夢を言葉にすることを軸に独自のカリキュラムやセミナーを行う。

受験の面接や生徒会活動など、様々なシーンに対し、サポートする。すでに5つの高校からプレゼンセミナーの依頼が来ているという。髙橋さんの次の夢は、プレゼンテーション講師の取得と米国のプレゼンイベント「TEDx」への出場だ。

「独自の農家フランチャイズシステム」で日本農業を支援

京都府福知山市でトマトを栽培している小林ふぁーむ代表の小林加奈子さんは、独自の農家フランチャイズシステムを立ち上げた。

同フランチャイズシステムでは、トマトの苗・肥料・ノウハウを無償で提供し、形が悪くてもトマトはすべて買い取る。農業を始めるための経費を抑えることができるため、農家は売上げをそのまま儲けることができる。災害や病気による全滅回避もできるほか、新規就農希望者のチャレンジの場としても有益だ。

これまでに約20人が参加し、年間3トンのトマトを栽培・収穫、トマトジュースを販売した。売上げも順調で、半年待ちの商品もあるという。1本1000円を超える完全無添加のトマトジュースは、2018年に起きた西日本豪雨によって水害にあった際に駆け付けた仲間たちと集めた1カゴのトマトから生まれた商品だ。

「農家は栽培について学ぶ機会はあるが、食卓に届くまでの過程を学ぶことは少ない」と、同フランチャイズシステムを活用した実践的な学び場づくりにも力を入れる。

美味しい野菜の育て方はプロの農家さんに、トラクターの乗り方は農業機械士さんに、野菜の販売の仕方は八百屋さんやバイヤーさんに教えてもらう――。そんな講座を開いていくという。

ファイナリスト7人の発表を終えて、渡邉代表理事は、「戸松裕登さんの夢の向こうには日本の明日を支える中小企業の皆さんが頑張っている姿が見えた。髙橋窓太郎さんの夢の向こうには壁の世界遺産が見える。夢は将来の子どもたちの笑顔を生む。私たちは夢を本気で応援していきたい」と語った。

次回「みんなの夢AWARD15」は、2025年に開催される予定だ。


社会との関わりや、人や社会、地球を元気にする取り組みなどを紹介します。