ワタミグループは、事業活動を通じて社会課題の解決に取り組むとともに、「ソーシャルビジネス」に挑戦する社会起業家を応援しています。

ワタミの考えるソーシャルビジネスとは

ソーシャルビジネスの目的は、ビジネスの手法を用いて、事業活動を通じて、社会の課題を解決することです。
ノーベル平和賞受賞者であるムハマド・ユヌス氏は、次の7つをソーシャルビジネスの原則として挙げています。

①経営目的は、利潤の最大化ではなく、人々や社会を脅かす貧困、教育、健康、情報アクセス、環境といった問題を解決することである。
②財務的・経済的な持続可能性を実現する。
③投資家は投資額のみを回収できる。投資の元本を超える配当は行われない。
④投資額を返済して残る利益は、会社の拡大や改善のために留保される。
⑤環境に配慮する。
⑥従業員に市場賃金と標準以上の労働条件を提供する。
⑦楽しむ!
(出典=『ソーシャル・ビジネス革命』ムハマド・ユヌス著、岡田昌治監修、千葉敏生訳、早川書房)

この原則から考えれば、ソーシャルビジネスは、社会的利益を目的に、継続的に収益を上げていきながら、雇用も生み、そして社会の課題を解決することができる仕組みであり、一般の企業ともNGOとも異なる仕組みであることがわかります。
一般の企業とソーシャルビジネスの違いは、例えば株式の配当を株主に還元するか、もしくは社会に還元するかというところにあります。
ソーシャルビジネスでは、出資者は出資額以上の配当を受け取れません。その配当は、ソーシャルビジネスの事業の拡大や改善のために活用されます。

つまり、ソーシャルビジネスとは、社会の課題を解決する経済システムそのものであり、商品やサービスを供給する者も、それを欲する者も、皆で豊かになっていくことができるシステムであると言えます。


対談:渡邉美樹×渡邊智惠子(株式会社アバンティ 代表取締役) 日本の岐路に立つ

「みんなの夢AWARD」の主宰で、ユヌス・ソーシャルビジネスをベースにした一般社団法人「ソーシャルビジネス・ドリームパートナーズ」の発起人でもある渡邉美樹が、これからのソーシャル・ビジネスを考える上でのキーパーソンたちと語り合う「o:kun」web magazineの対談企画。第4回目は、20年以上前からオーガニックコットンの普及に努め、日本ソーシャル・ビジネスのパイオニアとして活躍されている渡邊智惠子さん(株式会社アバンティ代表取締役)をお迎えしました。

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――渡邉美樹さんと同じく、渡邊智惠子さんも陸前高田などの被災地で東日本大震災の支援活動「東北グランマの仕事づくり」プロジェクトを続けられていますが、これはどういったビジョンによる活動になるのでしょうか?

渡邊智惠子(以下、智惠子) 私は2011年6月26日に宮城県石巻市の大指という場所で、初めて自分の目で被災地の様子を見たんです。当時、私の友人が被災地の情報を集めていたのですが、そこは本当に小さな38世帯の漁村で、支援が行き届きにくい場所だったんですよ。そんな場所に、私たちが提供できるオーガニックコットンの残布を持ち込んで何かできないか? そんな時、避難所で寝泊まりをしていたおばちゃんたちと相談して始めたのがこの「東北グランマの仕事づくり」プロジェクトだったんです。針と糸さえあれば仕事を作れる。そして仕事があれば、それが希望や夢につながるのではないか。そんな想いで、被災地のグランマたちに小さなクリスマス・オーナメントを作ってもらうことから全ては始まったんですよ。

渡邉美樹(以下、美樹) 考え方としては、内職のようなものですよね。販売個数はどれくらいでした?

智惠子 2011年のクリスマス用として2万5000セットですね。1セットあたりの卸値が700〜800円ですから、売り上げが約1600万円。その内の5割を、仕事をしてくれたグランマたちに支払うことができました。石巻、陸前高田、久慈の3ヵ所で計50人のグランマたちに働いてもらったので、一人あたりのお金にすれば決してたいした額にはなりませんが、それよりもみなさんに希望を持って働いてもらえることに大きな喜びを感じたんです。

美樹 たいした額ではないと言いますが、残布を材料にするとはいえ卸値の5割を賃金として支払うというのは十分にすごいことですよ。

――ライフラインの復旧もなされたいま、被災地では雇用の問題が取り沙汰される機会も多くなっていますが、その状況についてはどのように考えられていますか?

美樹 仕事がないというような論調もよく耳にしますが、実際はどうなんでしょうね。私がこのあいだ陸前高田に行った時には、仕事があるのにみんな働かないというような声もききましたから。でも、自分が大切にしていた人や家が流されてしまって、なかなか仕事をする意欲が湧かないというのは、人間として当たり前のことだと思うんですよ。

智惠子 いまは求人率200%らしいですから、仕事がないわけではないんですよね。

美樹 そうですね。ワタミタクショクが陸前高田に開設したコールセンターも100人の雇用を目指していますが、まだ60人くらいだと聞いていますからね。でも、仕事の種類が選べるほど豊富かというとそうでもないですし、我々は引き続きみなさんに働いてもらえる環境づくりを進めて、心の傷が癒えるのを待っているしかない。

智惠子 一番難しいのは、その仕事の先にどんな目標を持ってもらうかという部分ですよね。例えば「東北グランマの仕事づくり」では毎年クリスマスになると、東京の卸先の会社が彼らのクリスマスイベントにグランマたちを招待してくれるんです。わずか10名程度とはいえ、東京のイベントに参加するための交通費と滞在費を全部支給して頂いて、グランマたちは自分たちの作った商品を手にするお客様たちと面と向かって交流することができるのですが、こうした機会に恵まれたグランマたちの表情を見ていると、仕事における夢の大切さみたいなものを再認識するんですよ。

美樹 そういう仕事のモチベーションになるようなイベントがあるのは素晴らしいですね。今年のクリスマスにも招待があるんですか?

智惠子 ええ。それに今年は、グランマたちにミシンを提供してくれたスイスのディーラーさんから、現地招待のお誘いも頂いたんですよ。グランマたちの作ったトートバックや針山などの製品がスイスで好評なので、2名のグランマたちが現地に行って着物の着付けやふろしきの使い方などを披露させてもらったんです。わずかな工賃や給料ももちろん大切ですが、こうした機会を通じて夢が膨らむっていうのはすごく大事なことですよね。

――被災地では、そうやって夢を描けるような仕事がまだまだ不足しているというのが実情なんでしょうか。

美樹 ええ。でもそれは単純に他者から与えられるだけのものでもないから難しいですよね。私は陸前高田で現地の商店経営者たちへの勉強会を続けていますが、仮設だった商店が補助金により本商店に生まれ変わろうとしているいまのタイミングになっても、まだ彼らから30〜50年後の町を見据えた町づくりの意欲みたいなものを感じないんですね。とても難しいことだけど、せっかく新しい商店街ができるのなら、それを日本一の商店街にしたいと考えなければいけない。要するに、一番求められているのは想像力なんですよ。

智惠子 フラットだから何でもできると思わなければいけないはずなのに、いまは街をどうしていくのか、その青写真を描く人が不足しているんでしょうか。そこはやっぱり行政の役目になるんですかね?

美樹 行政だけでもいけないし、民間だけでもいけない。でも、もっと民間の側から働きかけてもよいはずだと思うんですよ。国はお金をつかうというスタンスで、簡単にいえばその予算を使い切っていないんです。だから本当は、自分の商店のことや複数店舗でグループ補助金をもらうことに終始しするのではなく、もっと大きな未来を描く気概をアマチュアの側が見せていかないといけないんですよ。もちろん経験のない民間の方々が街の青地図を描くことは難しいことだとは思いますが、せっかくプロがソフトの部分まで応援してくれる仕組みまで整ってきているんですから、それを利用しない手はないんですよ。

智惠子 でも陸前高田では、美樹さんの勉強会に刺激されたという方にたくさん会いましたよ。そういった経験を土台にして、地域活性産業が出来上がっていくといいですよね。

美樹 ええ。そのためにはもう一度みんなが一つにならないといけないですよね。自分の利害のことから少し離れて、高田のため、そこに暮らす子供たちにために動かないと、本当に一つにはなれないし大きな夢も描けない。

――被災以前の状態に早く戻りたいという気持ちと、ここから先の未来を描こうという気持ちの摺り合わせは、被災者のみなさんにはなかなか難しいのかもしれないですね。

美樹 でもね、実はこの問題というのは被災者だけの問題ではなく、日本全体の問題だと思うんですよ。いま、みんなが本当に日本の未来を描く気概を見せないとこの国は危ないんです。個人的にはオリンピックが開催される2020年あたりが、日本が生き残れるかどうかの結果が出る年だと思うのですが、1000兆円の国債ってとんでもないお金で消費税率を3%上げたくらいでどうにかなるものじゃない。でも、みんなその危機感があまりにも希薄だと思うんですね。被災地にどんな未来が描けるかということは、そのまま日本全体の未来に関わってくるんですから。

智惠子 私はそのためにも、日本は「有機農業=オーガニック」というキーワードで、農業を自国の産業として確立し直すべきだと思いますね。世界は日本の安心を買いたいんですよ。津波の被害から立ち直るのが早かったのは農業でしたし、TPPも採択されようとしている今だからこそ残さなければいけないことがある。やはり国は一次産業、二次産業から盛り上げていなかないと豊かにはなりませんしね。

美樹 そうですね。そのための第一歩としてやってきたのが「みんなの夢AWARD2012」のグランプリとしてサポートしてきた陸前高田の「きのこのSATO」なんですが、あの会社はシイタケを世界に向けてブランド化することで、1億円以上の売り上げと100人近い雇用を生み出すことに成功したんです。私はもうこのノウハウをどんどん近隣にも真似してもらって、陸前高田をキノコの街にしてもいいと思うんです。あそこの土地や気候はキノコの栽培に向いていますから。

――そのあたりのことを考えると、日本は「メイド・イン・ジャパン」の強みみたいなものにもう一度立ち返る時期にきているのかもしれませんね。渡邊美樹さんのいう2020年には東京オリンピックが開催されますし、そこで世界にアピールすべきことに向けて、いまどんな準備をするべきかが問われているのかもしれません。

智惠子 そうですよ。これは個人的な夢でもあるのですが、私はオリンピックの選手村をすべてオーガニックにすればいいと思うんです。食事から、ベッドから、建物の資材に至るまですべてをケミカルフリーにできれば、それは世界に向けた素晴らしいアピールになると思うんですね。そして7年後に日本がオーガニックをキーワードに再スタートをきるために、津波の被害にあってフラットになってしまった土地に、どんどんオーガニック農場を増やしていきたい。

美樹 それは一つの切り口としてすごく面白いですね。2020年のオリンピックにおけるコンセプトは、次の日本のコンセプトでなければならないと思うし、そのときオーガニックという観点は間違いなく重要視されるべきだと思います。そこをいかに農業のブランド化と輸出促進につながるようにデザインしていくか。あとはやっぱり、観光でしょうね。食のブランド化も含めて観光客をいかに巻き込むか。オリンピックに来れなかった人たちが、来年に東京に行きたいと思うようなコンセプトが必要なんですよ。

智惠子 観光においても、オーガニックは重要な切り口になると思いますよ。だって世界の人たちは「美味しい日本」「清潔な日本」を求めているんですから。だからこのタイミングから日本がオーガニックに特化していくというのはすごく重要なことだと感じているんです。美樹さんだって、ワタミグループを日本で一番の有機農場を持つグループにしたわけじゃないですか。だから日本の未来のために、何か一緒にできることがあると思いません?

美樹 そうですね。「日本をオーガニック・アイランドにする」というメッセージには、すごく魅力的な響きがあると思います。これからオリンピック関連の会合に出席する機会もあるでしょうし、この「オーガニック」というキーワードはしっかりと頭に入れておきますね。

 

 


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