「高校生みんなの夢AWARD2」、「源平合戦の体感ツアー」がグランプリに

2021.08.06 社会

高校生が社会課題を解決するビジネスモデルを発表する「高校生みんなの夢AWARD2」が8月4日、オンラインで開かれた。高校生は、事前学習コンテンツである「ソーシャルビジネス学習プログラム」を通じて、社会課題やビジネスの仕組みを学んできた。全国48校、エントリー153人のうち、10人がファイナリストとして登壇。グランプリには、「源平合戦の体感ツアー」を提案した尾崎光さん(岡山県立岡山大安寺中等教育学校6年)が輝いた。

「高校生みんなの夢AWARD」は、未来を担う高校生が社会問題の解決と自分の夢を重ね、起業家精神を育むことを目的とした、高校生対象のビジネスモデルコンテストだ。

事前学習コンテンツである「ソーシャルビジネス学習プログラム」は、社会課題を解決する9人の起業家の事例に触れ、ビジネスの仕組みを理解し、夢をかなえる力を培うことを目指す。主催する公益財団法人みんなの夢をかなえる会は、受賞した高校生の事業計画や夢と関連する国内外研修旅行など、夢にまつわる応援サポートを行う。

■観光資源を掘り起こし、新たな魅力づくり

3尾崎光さん審査の結果、グランプリに選ばれたのが、「源平合戦の体感ツアー」を提案した岡山大安寺中等教育学校6年の尾崎さん。倉敷への観光客は多いものの、宿泊する割合は2割以下にとどまることに問題意識を持ち、倉敷の観光を滞在型に変え、周辺地域の観光資源の掘り起こしを目指す。

尾崎さんは838年前の「源平合戦」で、平氏が金環日食を利用して勝利を勝ち取ったことに着目。近隣の科学センターに相談し、当時の金環日食をプラネタリウムで再現した。2021年11月には、トライアルとして源平合戦の体感ツアーを実施する予定だ。

尾崎さんは「地元のおかみさん会会長として活動する祖母や、街の活性化に取り組む父の姿を見てきた。今回のコンテストをつうじて私にもできることがあると気付き、みんなが訪れたくなる街づくりをしていくことが夢。まさかグランプリに選ばれるとは思わなかったが、引き続き夢に向かって頑張りたい」と語った。

■  「菊芋」で日本と東南アジアの課題を解決

2水谷優芽さん

準グランプリには3人が選ばれた。そのうちの1人、水谷優芽さん(広島県立加計高等学校3年)は、「安芸太田町産菊芋で日本も東南アジアもHAPPY大作戦!」を提案した。

水溶性食物繊維イヌリンが豊富に含まれる「菊芋」を活用したビジネスプランを構想し、中山間地の活性化と東南アジアで増えている糖尿病問題の同時解決を目指す。その具体的な方法として、菊芋のパウダーを練り込んだサブレを販売。サブレのレシピは熊本県内の有名シェフとコラボした。

水谷さんは「ほかの地域から安芸太田町に引っ越してきて、菊芋の美味しさを知った。ベトナム人の友人からは、東南アジアの厳しい現状を聞き、何かしたいと思って2人で考えた。課題を解決するために、このビジネスを成功させたい」と話す。

■処分される乳牛のオス肉をバーガーに

7平田泰一さん

同じく、準グランプリに選ばれたのが、平田泰一さん(郁文館夢学園郁文館高等学校3年)だ。ジャージー牛のオス肉を使用した高級なグルメバーガーを提案する。

乳牛として知られるジャージー牛のオス肉は、赤身で油が黄色く、小柄でコスパも悪いことから、無価値なものとして年間約2000頭が処分されている現状があるという。一方で、生産者の間では「ジャージー牛のオス肉はおいしい」と評判だった。「捨てられてしまうなんてもったいない。自分で販売してみたい」と考えた平田さんは、デリバリー専門の高級なグルメバーガーを発案した。「ジャージー牛の生産者のコミュニティーをつくることで、供給量の安定化と市場の形成ができれば」と展望を語った。

■ダイバーシティーを体感できるボードゲーム

 10中野実桜さん

「未来をつくる子どもたちにダイバーシティーの感覚を届けたい」。そう熱く語ったのは、同じく準グランプリの中野実桜さん(立命館宇治高等学校1年)だ。子どもから大人まで楽しんでダイバーシティーを体感できるボードゲーム「IROIRO(イロイロ)」を開発した。

中野さんは中学一年生のときに、スウェーデンの幼稚園を訪問し、母親が2人いる家族のポスターを見た。「先生は、家族の形は一つではないことを伝えていた。こうすればダイバーシティーな社会がつくれるのか」と大きな気付きを得たという。「IROIRO」を使って遊ぶことで、世の中にある困りごとに気付いたり、プレイヤー自身が課題を解決したりする力を育むことができる。

「多様性を当たり前にできない根深い固定観念を取り払い、自己肯定感を持ちにくい社会を変えたい。そうすれば差別やいじめの根絶につながるはず。このボードゲームをハッピーな未来をつくるきっかけにしていきたい」と語った。

ほかにも、ファイナリストからは自由な発想のビジネスプランが紹介された。

■「回想療法」で高齢者のQOL向上目指す

1.山崎航太朗さん

高齢者向けに回想療法を行う「Remind-our-Past(ROP、移動懐古室)」を提案したのは山崎航太朗さん(本郷高等学校2年)だ。高齢者の多くは友人がおらず、それによってQOLが低下したり、活動量が減少したりするといった課題に着目した。

昔の映像などを見ながら思い出を語り合う回想療法では「脳の活性化」「記憶のポジティブ化」「幸福感」を得られるという。NHKが提供している「回想法ライブラリー」を活用するほか、VRで過去の思い出の場所を訪れるなど個人の記憶をよみがえらせる。実際に回想療法を体験した山崎さんの祖母は、昔の歌を歌うことで、小学校の記憶を語り出した。「記憶の力と回想療法の力を感じている。もっと多くの人に機会を提供するために『移動式』を発案した」と話す。2024年1月に起業することを目指している。

■シャッター街の活用で待機児童問題の解決を

4富永美都さん

富永美都さん(沖縄県立那覇商業高等学校3年)は、シャッター街を利用して、商業施設と保育園を合併し、待機児童問題の解決を目指す。

富永さんは「シャッター街を丸ごと借りて、テーマパークのようなおしゃれな街並にしたい。『ワクワク』する空間には人も集まってくる。保育所、青果店、コミュニティールームを設置することで、働きやすく、仕事帰りに買い物もできる便利な環境をつくりたい」と構想を話す。保育園生向けのインターンシップのアイデアも披露し、「働くことを教えるのではなく、コミュニケーション能力や協調性を育てていければ」と話した。

■ココナッツオイル入り男性用化粧品で貧困を撲滅したい

5中村舜世さん

「世界から貧困をなくしたい」。その思いで、「フィリピンのココナッツオイルを使った男性用化粧品の製造・販売」を構想するのは、中村舜世さん(学校法人ヴィアトール学園洛星高等学校1年)だ。

「貧困率が高いフィリピンでは、大学を卒業してもアルバイトの職さえ得られない」とし、この状況を打破するために、新たな雇用創出を目的としたビジネスプランを考えた。フィリピンの特産品であるココナッツを、現状の買い取り価格の2倍となる40ペソで仕入れ、貧困層を雇用し、子どもが大学を卒業するのに十分な給与(1万1000ドル)を支払うことを目指す。中村さんは、「従業員には金融教育を行い、貧困の連載を断ち切りたい。男性でも買いやすいように、デザインや配色にこだわった製品をつくりたい」と意気込んだ。

■「わらウォッチ」で高齢者の笑顔を取り戻す

6平松愛梨さん

孤独を感じている高齢者が多いことを知った平松愛梨さん(三重県立四日市農芸高等学校2年)は、高齢者を笑顔にする時計「わらウォッチ」を考案。一人暮らしの高齢者は、孤独を感じている人が多く、地域社会への参画も消極的になりがちで、食欲や活動量も減少してしまう。

そこで、平松さんは、歩数計、心拍数、血圧や血糖値が計測でき、その情報が家族に送信されるスマートウォッチを考えた。特徴的なのは、アレクサやSiriのような音声アシスタントが、故人や家族、友人の声で再生されることだ。まだ構想段階だが、「高齢者を絶対に一人にさせたくない。わらウォッチで笑顔と安心感を提供し、高齢者の課題を解決したい」と語った。

■伊豆の特産品を使ったワイナリーレストラン

8中谷華子さん

「伊豆の特産品を使ったワイナリーレストラン」を構想したのは、中谷華子さん(静岡県立下田高等学校3年)だ。下田市の高齢化率は現在39.8%で、2045年には56%になる予測もある。20、30代の若い世代が働きたくなる魅力的な場として、ワイナリーレストランを立ち上げ、雇用創出を目指す。

ワサビや河津桜、ニューサマーオレンジ、白ビワといった伊豆の特産品を使ったリキュールの提供も検討している。中谷さんは、「従業員はすべてアルバイトではなく、正規雇用にしたい。移住者同士や地元の人ともつながることができるコミュニティーをつくり、食を通して人とのつながりを取り戻し、高齢化や過疎化に悩むほかの地域のロールモデルにできれば」と話した。

■群馬とミャンマーの織物のコラボレーション

9熊谷千楓さん

熊谷千楓さん(上野学園高等学校1年)は、群馬県桐生市の特産である絹織物「桐生綿」とミャンマーのロンジー織とのコラボレーションを構想している。きっかけは、小学3年生のときに、富岡製糸場を見学したこと。初めて「桐生綿」に触れ、その柔らかさに感動した一方で、後継者不足に悩んでいることを知った。

同時に、ミャンマーの貧困問題を知った熊谷さんは、「協働してモノをつくれば互いの問題が解決できるのではないか」と考えた。桐生織とロンジー織の技術でスカーフやネクタイなどを作り、ミャンマーのお土産品として販売したい考えだ。熊谷さんは「みんなの夢アワードへの参加を通じて、問題を深く掘り下げることができるようになった」と語った。

「高校生みんなの夢AWARD2」の審査委員ら

「高校生みんなの夢AWARD2」の審査委員ら

渡邊美樹・審査委員長は、「今回も素晴らしい発表の数々だった。日本は少子高齢化が進んでおり、このままだと経済力が落ちてしまう。守るためには納税と雇用を生み出す、事業を起こすしかない。夢アワードを通じて、一人ひとりの夢を応援し、起業家のすそ野を広げていきたい。素敵な夢が集まって、素敵な社会になる。来年もまた素敵な発表を期待したい」と総評した。


社会との関わりや、人や社会、地球を元気にする取り組みなどを紹介します。