「高校生みんなの夢AWARD5」、「無駄なしきのこ畑」がグランプリに

2024.08.27 社会

高校生が社会問題を解決するビジネスモデルを発表する「高校生みんなの夢AWARD5」が8月22日、国立オリンピック記念青少年総合センターで開かれた。エントリー1554人のうち、10人がファイナリストとして登壇。グランプリには、「無駄なしきのこ畑」を提案した⾼畠奏⼤さん(郁⽂館⾼等学校)が輝いた。

全体写真②

「高校生みんなの夢AWARD」は、未来を担う高校生が社会問題の解決と自分の夢を重ね、実現するためのビジネスアイデアを策定するコンテストだ。高校生に「自己の在り方や生き方」と「社会との関わり」を考えるきっかけを提供し、「夢」を持ってもらうことを目的とする。

高校生は、事前のオンライン学習コンテンツ「ソーシャルビジネス学習プログラム」を受講し、社会問題やSDGs(持続可能な開発目標)について学び、自ら解決したい社会問題を見つける。

「高校生みんなの夢AWARD」の審査基準は、「共感性・社会性」「事業性」「プレゼンテーション」の3つだ。

主催する公益財団法人みんなの夢をかなえる会は、受賞した高校生の事業計画や夢と関連する国内外研修旅行など、夢にまつわる応援サポートを行う。グランプリには、ビジネスモデルに関連する国内外の研修旅行券20万円分、準グランプリには10万円分を贈る。

■「無駄なしきのこ畑」で日本農業に革命を

高畠さん②

グランプリに輝いた⾼畠さんは、ソーラーパネルの下のデッドスペースを活用した「無駄なしきのこ畑」を提案した。「農家の減少といった日本の農業の課題は、大きなきっかけがないと歯止めがかからない。産業構造の変化が必要だ。日本の農業に革命を起こしていきたい」と力強く語った。

⾼畠さんが問題を解決する手段として着目したのが、きのこの栽培だ。菌床栽培は年に3回ほど収穫が可能で、農業経験や広大な農地がなくても参入しやすいという理由からだ。

菌床栽培に必要なおがくずや電力など、生産コストが上がっているなか、きのこだけではなく、電気や堆肥、昆虫なども販売するビジネスモデルを提案した。

グランプリ受賞を受けて、⾼畠さんは「農業以外にも、それぞれの産業の問題がある。今回の提案が、ほかの企業が変わるきっかけになれば嬉しい。自分自身もほかの産業分野の変革にも挑戦していきたい」と意気込んだ。

■闘病中の子どもたちに「勉強」の選択肢を

真貝さん②

準グランプリに選ばれたのは、新しい形の病院内教育を提案する真⾙修太郎さん(⼤阪医科薬科⼤学⾼槻⾼等学校)さんだ。

「もし自分の子どもが病気で入院し、その子が『学校に行きたい』と言ったらどうするか。病院には『院内学級』があると思うかもしれない。でも実際は全国に199学級しかない」

真⾙さんは、小学生のときにギラン・バレー症候群で入院し、院内教育の問題に直面した。「入院の短期化、頻繁化が起こり、そのたびに指導してくれる担当者が変わる。院内教育の学習管理不足は、大きな課題だ」。

そこで提案するのが、院内教育のプラットフォームだ。闘病中の子どもたちをつなぐオンラインコミュニティや、学習データの一括管理、勉強を教えてくれる学生ボランティアとのマッチングシステムなどを充実させるプランだ。

「友達と話したり、勉強したりするために、みんな学校に行きたくなる。ボランティアに助けられた子どもたちが、次のボランティアとして育っていくかもしれない。そうした世代を超えた循環をつくれたら」

真⾙さんは、「院内教育を支えるNPOの存在はあまり知られていない。『高校生みんなの夢AWARD』に参加している800人の前でプレゼンできたことは、とても良い経験になった。皆さんの力を借りて、これからも頑張っていきたい」と語った。

■囲碁を身近に、発達障がいの克服へ

撹上さん②

日本では、発達障がいがある人は10人に1人といわれている。これは左利きの割合とほぼ同じだ。自身も発達障がいがある撹上⿓之介さん(名古屋経済⼤学市邨⾼等学校)は、幼少期に囲碁と出合い、「人生が変わった」と言う。

囲碁は脳を活性化することから、撹上さんは、「Go Rise:輝く未来の一手」プロジェクトを提案。囲碁用語を分かりやすく解説するほか、囲碁検定や発達障がい児に囲碁を教える指導者育成などを計画する。

「発達障がいを持つ著名人は多い。世界を変えるのは発達障がいの人。世界的に囲碁を広めていくビジネスを展開したい」と語った。

■「水力×太陽光」で無電化地域に灯りを

細石さん①

細⽯樹成さん(大分県立大分工業高等学校)は、水力発電と太陽光発電を組み合わせたハイブリッド発電の水車を開発した。ケニアの無電化地域で普及させることを目指す。きっかけは、ケニアで医療支援を行っている医師に出会ったことだった。

発電量は5ワットと微力だが、細⽯さんは「この水車が発電することで、人々の意識を変える可能性もある」と自信をのぞかせる。社会貢献を行いたい企業向けに、水車を提供し、CSR(企業の社会的責任)活動をサポートするビジネスモデルを提案した。

細⽯さんは「微力だが、無力ではない。水車を通じて、教育水準の向上やエネルギー問題の解決につなげたい」と訴えた。

■「マスクを外せない」悩みに応えるフェイスクリーム

鈴木さん②

「コロナ禍が明けても、マスクを外せない若い人が増えている。ルッキズムや加工アプリの影響も大きい。これは社会問題だ」

こう語るのは、鈴⽊⼤輝さん(早稲⽥⼤学⾼等学院)さんだ。「マスクを着け続けることで、肌荒れが悪化し、それを隠すためにマスクを着ける。その悪循環に苦しむ人は多い」。

同じ悩みを抱えていた鈴木さんは、この問題を解決するため、マスクを着けながらスキンケアできるフェイスクリーム「ナトレア」を開発した。セルロースナノファイバーやコーヒーかすから抽出したコーヒーオイルを配合する。鈴木さんは「誰もが自分らしくある社会をつくりましょう」と呼びかけた。

■「指サック歯みがき」で世界を変えたい

福田さん②

福⽥優⽻さん(広尾学園中学校⾼等学校)は、カンボジアにボランティアに行ったとき、笑顔の子どもたちの歯がなかったり、黒かったりしたことに気付いた。カンボジアでは、歯みがきの習慣があるのは、22%だという。

一方、縫製工場では、未利用布の大量廃棄が問題になっているという。そこで、歯みがきと未利用布の活用を掛け合わせた「指サック歯みがき」を提案した。廃棄された布で指サック型の歯ブラシを作成。一般的な歯ブラシと比較しても、同じくらい磨けるという。

「歯磨き習慣と学力は関係する。歯磨き習慣で衛生問題を改善し、学力向上にもつなげていきたい」(福田さん)

■「食糧支援型教育システム」で貧困の連鎖を断ち切る

辻元さん②

辻元逢めりさん(同志社国際⾼等学校)は、インドの貧困の実態を知り、教育の重要性を認識した。同時に、親世代の食糧ニーズへの対応も必要だと考えた。

辻元さんは、学校のボランティア部でフードドライブを実施した経験から、「食糧支援型教育システム」を考案。オンラインビデオで学習した子どもたちにポイントを付与し、獲得したポイントと食料を交換できる仕組みを考えた。

辻元さんは「教育機会の拡大と食糧支援を同時に実現し、貧困問題の包括的な解決を目指したい」と話した。

■プロチームと連携し、中学の部活動を変えたい

奥津さん①

子どもや教員の減少とともに、中学校の部活動が存続の危機に瀕している。政府は、学校の負担を減らすために「部活動の地域移行」を推進するが、課題は多い。

そこで、奥津⾳乃さん(愛媛県⽴今治⻄⾼等学校)は、学校が自治体や地域のスポーツクラブと連携する「ホストシティ制度」を提案した。ロスポーツクラブが部活の指導を行う仕組みで、クラブの経営と学校の指導者不足を同時に解決したい考えだ。

奥津さんは「中学生のもっとうまくなりたいという気持ちを応援したい。自治体やプロチームと連携することで、それを実現したい」と語った。

■どんな社会問題も「自分事化」を

佐藤さん②

佐藤奏⾳さん(N⾼等学校)は、「何事も自分事化する」ことの重要性を訴えた。SDGsを含む「持続可能な開発のための2030 アジェンダ」に掲げられた「我々の世界を変革する」というメッセージの意味を強調した。

「課題に自ら気付く人を増やしていきたい」と語る佐藤さんは、「言語化できていない気付きを想像して、創造していく」ために、カードゲームなどを活用しながら、創造するプロセスを体験できる機会の提供を目指す。

小学校6年生で起業した経験がある佐藤さんは、「いまと未来を面白がって、自分が考えたことを形にしていくプロセスを体感してほしい」と呼びかけた。

■日本農業の救世主は「パクチー」

澤田さん②

澤⽥和花さん(ID学園⾼等学校)は、パクチーを活用した日本農業の課題解決を目指す「ぱくちーぱっくPROJECT」を提案した。若者の農業離れが進み、耕作放棄地が増えているなかで、自身も大好きなパクチーに着目した。

澤田さんは、採れたてのパクチーを楽しめる農業体験や、パクチー温泉などを企画する。「パクチーはビタミンCが豊富で、年齢問わずに取り入れるべき野菜。かき揚げにすると、日本のそばにも、よく合う」。

澤田さんは、「パクチー体験を通じて、パクチーマニアが集まるコミュニティをつくりたい。そこから、パクチー農家になりたいという人が出てくるかもしれない」と語った。

■2025年の「高校生みんなの夢AWARD」は万博で

渡邉美樹・審査委員長(みんなの夢をかなえる会代表理事、ワタミ代表取締役会⻑兼社⻑CEO)は、「夢は、その人が生まれてきたから起こる奇跡。人間は幸せになる権利があるが、残念ながら、世界には不平等がある。アワードの審査基準は、社会問題をビジネスの力で解決していくこと。将来、社会問題を解決するような経営者になってほしい」と期待を寄せた。

2025年は大阪・関西万博の会場で、「高校生みんなの夢AWARD」を開催する。アジア各国からもファイナリストが参加する予定だ。


社会との関わりや、人や社会、地球を元気にする取り組みなどを紹介します。