牛にも人にもやさしい「北海道美幌グラスフェッドアイス」

2023.08.23 農

■井関俊幸・ワタミファーム代表取締役社長インタビュー

約300ヘクタールという広大な牧場で、有機の牧草を食べて育った牛の生乳からできた「北海道美幌グラスフェッドアイス」。卵や化学添加物は不使用で、牛乳本来のコクと甜菜糖の自然な甘さが口に広がる。カロリーと糖質は、一般的なアイスの2分の1だ。なぜワタミファームはアニマルウェルフェア(動物福祉)に配慮するのか。同社の井関俊幸代表取締役社長に話を聞いた。

ワタミファームの井関俊幸代表取締役社長

ワタミファームの井関俊幸代表取締役社長

■「本来の牛の生態に合わせて育てたい」

――ワタミファーム美幌峠牧場(北海道美幌町)では、牛たちは有機栽培た牧草を食べて過ごしています。こうした放牧型グラスフェッド酪農は、日本全体の数%に満たないそうですが、なぜワタミファームは牧草飼育にこだわるのでしょうか。

「牛の生態に合わせた育て方をしたい」という思いがあり、放牧型グラスフェッド酪農に取り組むことになりました。

もともと美幌峠牧場は町営だったのですが、運営が厳しくなり、2018年から当社が美幌峠牧場で酪農事業を開始しました。農場長の福村拓也は、北海道で食肉のバイヤーをしていたのですが、「牛にやさしい飼育」を実現したいという思いが強かったのです。

牛は本来歩き回って草を食べて生きていますが、家畜化された牛は、穀物飼料を食べています。そのほとんどは海外から輸入された飼料です。

そこで、徐々に穀物飼料から牧草に切り替えました。牛の数も当初の50頭から300頭に増やしました。主に有機栽培で育てた自家生産の牧草で飼育しています。牧草地の97%で有機認証を取得しました。

冬期以外は、放牧酪農を行っていますが、この1カ月は、北海道も猛暑のため、牛舎で牛を休ませることもあります。

私たちは何よりも、ストレスを与えず、病気にならないように、牛の健康を守ることに力を注いでいます。一頭一頭にタグをつけ、体調管理を徹底しています。

やはり広い牧場をのびのびと歩き回る牛の姿を眺めるのは楽しいものですね。

――グラスフェッドの人気は徐々に高まっていますが、消費者の意識は変化していますか。

関心は高まっていると思いますが、グラスフェッドの認知度はまだまだ低いと思います。そもそも、牛乳パックのデザインにあるように、ほとんどの消費者は、乳牛は放牧されていると思っているのではないでしょうか。

実際は、草食動物である牛に高カロリーな穀物原料の飼料を食べさせ、歩き回ることのできない牛舎で飼育しています。これでは牛の健康に良くありません。

■搾乳量よりも牛の健康を大切に

牛たちがのびのびと育つ美幌峠牧場

牛たちがのびのびと育つ美幌峠牧場

――美幌峠牧場の牛たちは、平均よりも長生きだとお聞きしました。

日本の乳牛の寿命は5~6歳と言われていますが、美幌峠牧場の牛の寿命は、その2倍ほどです。

私たちが最も大切にしているのは、牛の健康管理です。人間と同じで、牛も食事と運動が大切です。1回あたりの搾乳量も抑えるようにしています。

実は、牧草よりも、高カロリーな穀物飼料で育てた方が、乳量は増えるのです。しかし、1回の搾乳量は少なくても、牛が健康で長生きした方が、事業としてもメリットがあります。

有機農業も一緒で、単位面積当たりの収穫量は2~3割少ないです。それでも、食料の安全保障という点で、有機農業はとても重要です。ワタミファームは2002年から有機農業に取り組んでいますが、「本来あるべき農業」の追求といえます。

――健康に育った牛乳は、人間の健康にも良さそうですね。「美幌グラスフェッドアイス」は、牛乳本来の味が楽しめ、すっきりとした後味が魅力です。

ワタミファームの「美幌グラスフェッドアイス」

ワタミファームの「美幌グラスフェッドアイス」

美幌峠牧場の牛乳には、オメガ3脂肪酸や共役リノール酸が豊富に含まれ、栄養価も高いです。「美幌グラスフェッドアイス」は、卵と化学添加物が不使用で、生クリームも使っていません。

ですから、普通のアイスと比べて、カロリーと糖質が2分の1に抑えられています。牛だけでなく人にもやさしいアイスクリームとして、ギフトにもおすすめです。

■アイスの原材料は北海道産にこだわる

――美幌峠牧場では、循環型の酪農モデルを構築されています。改めて環境にはどのような良い影響がありますか。

「フードマイレージ(食料の輸送距離)」という概念がありますが、まず美幌峠牧場では飼料を輸入に頼らず、自家生産しているという点で、CO2排出量を抑えられています。アイスの原材料は北海道オホーツク産にこだわり、オホーツク産の甜菜糖、オホーツクの塩を使用しています。

牧草は有機栽培ですから、微生物が豊富な土壌を育み、炭素の貯留にも貢献します。

牛糞はそのまま有機の牧草の肥料となり、循環型の酪農を実現します。さらに、牛の堆肥は、地元の農業にも還元し、循環型の酪農モデルを広げる挑戦も行っています。

また、国際情勢に伴い輸入飼料が高騰していますが、輸入に頼らないことは大きな強みにもなっています。環境と経済の両立を目指しています。

――ワタミファームの今後の展望は。

ワタミファームは、アイスクリームのほかにも、様々なオーガニック商品を提供しています。こうした商品を通じて、環境や社会、アニマルウェルフェアなどに対する意識を高めていきたいという思いがあります。

特に、「美幌グラスフェッドアイス」は、私たちの6次産業モデル「ワタミモデル」を象徴する商品です。生産の背景や魅力を多くの方に知っていただき、広く浸透させることが目標です。例えば、高級アイスを食べる方のうち、10人に1人でも「環境」を意識した買い物をしてくれるようになればと思います。

※「北海道美幌グラスフェッドアイス」は、ワタミオーガニックのオンラインショップ楽天市場、 ワタミファーム店舗や北海道のアンテナショップのほか、全国の「ミライザカ」「鳥メロ」「焼肉の和民」などで購入可能です(なくなり次第販売終了)。


社会との関わりや、人や社会、地球を元気にする取り組みなどを紹介します。