「みんなの夢AWARD12」グランプリに猪原有紀子さん:廃棄フルーツで育児ストレスを解消

2022.03.07 社会

社会起業家の発掘・育成・支援を目的に、SDGsにも貢献するビジネスプランコンテスト「みんなの夢AWARD12(主催:みんなの夢をかなえる会)」が3月2日、オンラインで開催され、ファイナリスト6人がプレゼンテーションを行った。グランプリに輝いたのは、廃棄フルーツを使った無添加グミを製造する猪原有紀子さん。準グランプリには、海洋モニタリングシステムを開発した野城菜帆さんが選ばれた。審査員長で、「みんなの夢をかなえる会」の渡邉美樹代表理事は「夢をかなえることは、社会を良くすることでもある。これからも、みんなの夢を応援していきたい」と述べた。

「みんなの夢AWARD12」のファイナリストと受賞者ら

「みんなの夢AWARD12」のファイナリストと受賞者ら

■廃棄フルーツで世界中の親子を幸せにしたい

「4年前に産後うつになり、育児ストレスを抱えていた。子どもには添加物を与えたくないと思いながら、静かにしてほしくて、市販のおやつを与えていた。そうすると、ますます罪悪感が募っていく。この『おやつストレス』をどうにか解消できないかと考えていた」

廃棄フルーツを使った「無添加こどもグミぃ〜。」を製造・販売する猪原さんは、開発のきっかけを語る。猪原さんが育児ストレスに悩んでいるとき、移住した和歌山県かつらぎ町で偶然目にしたのが、大量に捨てられた柿だった。

そこで、この廃棄フルーツを使って子ども向けのグミを作れないかと思い立った。2年間かけて大阪市立大学と「無添加こどもグミぃ〜。」を共同で開発。砂糖やゼラチンを入れず、フルーツを乾燥させてグミのような食感に仕上げた。2020年10月に販売を開始し、現在の定期会員数は500人に上る。

材料は、地域の農家から廃棄フルーツを買い取る。製造過程にもこだわり、加工は、障害者福祉施設に依頼した。2022年1月には、子連れ歓迎の観光農園「くつろぎたいのも山々。」をオープンするなど、事業を拡大している。

廃棄フルーツを使った「無添加こどもグミぃ〜。」を製造・販売する猪原有紀子さん

廃棄フルーツを使った「無添加こどもグミぃ〜。」を製造・販売する猪原有紀子さん

「子どもにとって良い社会をつくるという思いで取り組んできた。この船に一緒に乗ってくれた人たちを後悔させたくない。せっかくやるなら、目標を高く持ち、2027年にはマザーズ上場して、私たちがいなくなっても、子どもと母親の笑顔をつくり続けられるプロダクトや仕組みを社会に残していくということを約束したい。希望あふれる社会を子どもたちに残していきたい」と、受賞の喜びを語った。

■海洋モニタリングシステムで水産業を持続可能に

海洋観測システム「MizLinx」を開発した野城菜帆さん

海洋観測システム「MizLinx」を開発した野城菜帆さん

「もし国産の魚が食べられなくなったら?」、そう問いかけるのは、準グランプリを受賞した野城菜帆さん(慶應義塾大学大学院理工学研究科修士2年)だ。

この30年で約6割の漁業従事者が減少し、漁業従事者の9割は収入の不安定さを感じているという。野城さんは「漁業従事者は、魚がどこにいるか分からない、最適なエサやりができているか分からないといった課題を抱え、不確実性が高い操業を行っている」と話す。

そこで、野城さんは、遠隔で海の様子を把握できれば、こうした課題の解決につながるのではないかと考え、海洋観測システム「MizLinx」(ミズリンクス)を開発。2021年8月に株式会社MizLinxを設立し、代表取締役に就任した。

ミズリンクスは、海にセンサーを置いて、水温のデータや、海の様子を映像や画像で端末に送る海洋モニタリングシステムだ。宮城県気仙沼市や長崎市などで実証実験を進めている。

「もともとは、『海で使える機械を作りたい』という技術的な好奇心から始まったが、水産業で働く人たちの『水産業を守りたい』という熱い思いに感化された。水産業は資源の枯渇や人手不足といった厳しい状況にある。漁業・養殖業の業務を効率化し、海の資源によって豊かになった海洋立国日本を実現したい」(野城さん)

■「ピースウィッグ」を世界に

バングラデシュで人毛ウィッグ事業の立ち上げを目指す新川智子さん

バングラデシュで人毛ウィッグ事業の立ち上げを目指す新川智子さん

ファイナリストの一人、新川智子さん(アーキュリージャパン株式会社代表取締役)は、医療用ウィッグやシニア用、ファッションウィッグなど、人毛ウィッグの需要が高まるなか、バングラデシュで人毛ウィッグ事業の立ち上げを目指す。バングラデシュで、人毛を調達し、日本でウィッグに加工、世界中に販売することを視野に入れ、事業計画を進めている。

髪の毛は3年で36cm伸びて、12人の髪の毛でフルウィッグが完成するという。髪の毛の提供者には、1回5000円支払う予定だ。

新川さんは「ピースウィッグには、3つのPの意味を込めた。ピース(平和)のP 、ポジティブ(前向き)のP、パッション(情熱)のPだ。バングラデシュでは、毎年5万人の子どもたちが誘拐被害に合っている。フェアトレードで人毛を買い取ることで、現地の貧困をなくすことにも貢献したい」と意気込んだ。

■「サウナ×座禅」で廃寺を防ぐ

大泰寺の住職・西山十海さん

大泰寺の住職・西山十海さん

大泰寺(和歌山県那智勝浦町)の住職・西山十海さんは、3年前からサウナと座禅を組み合わせた体験プログラムと宿坊を運営している。これを全国の寺院に広げることで、お寺と人々を宗教以外でつなぎ、寺院の存続に貢献することを目指す。

背景には、住職のいない無住寺院が全国に約2万カ寺あり、20年後にはなくなってしまう可能性があるという。「人がいないことで貴重な文化財の盗難が相次ぎ、社会問題化している。寺院がなくなることは地域の歴史や文化を失うことでもあり、この損失を防ぎたい」(西山さん)。

ビジネスモデルは、お寺を保存したい団体や人々が新しい寺主(宗教法人)となり、賃貸借契約を結んだ運営会社が経営を行う仕組みだ。運営会社は、お寺にまつわるコンテンツをストーリー化したり、グッズを販売したりする。精進料理のインバウンド需要も見込む。西山さんは「禅僧として、地方のお寺を、都会と地方をつなぐ心の癒しの場にしたい」と展望を語った。

■日本型野球を通じてアフリカで人材育成を

アフリカ野球・ソフト振興機構(J-ABS)を立ち上げた友成晋也さん

アフリカ野球・ソフト振興機構(J-ABS)を立ち上げた友成晋也さん

30年間JICA‎(国際協力機構)に務めた友成晋也さんは、「日本型野球には人づくりの力がある」と考え、JICAを退職し、一般財団法人アフリカ野球・ソフト振興機構(J-ABS)を立ち上げた。

友成さんは、アフリカに8年半駐在した経験から、「ジャパンブランドの威力とビジネスチャンスの到来を肌で感じていた」と言う。駐在中は、休日に地域の子どもたちに野球を指導してきた。子どもたちから「バッターボックスではみんなが応援してくれる」「打席が平等にまわってくる。野球は民主的だから好き」といった言葉を聞いて、野球の可能性を感じた。

2020年にコロナにり患し重症になったこともあり、「拾われた命、夢の実現に挑戦しよう」と決意を固めた。J-ABSの主軸事業「アフリカ55甲子園プロジェクト」では、アフリカ各地で、野球とソフトボールの全国大会を開くためのサポートをしている。

「日本は人口が減少する一方で、いずれアフリカは巨大なマーケットに成長する。野球を懸け橋として、アフリカと日本の明るい未来を創造していきたい」(友成さん)

■玄米食品でコメの消費拡大と地域活性化

玄米の新しい食べ方を提案する小野正さん

玄米の新しい食べ方を提案する小野正さん

2021年に玄米を使った食品ブランド「玄米堂」を立ち上げた小野正さんは、玄米の新しい食べ方を提案する。日本人のコメ離れや小麦粉の高騰、動物性原料の大量消費に伴う環境問題、健康意識の高まりなどを背景に、食べやすくておいしい玄米食品を開発してきた。

玄米ラーメンや玄米デニッシュパンなど、ユニークな商品開発を手掛け、社食や学食、人気ラーメン店での導入が進んでいるという。玄米粉は、小麦粉の代わりに、唐揚げや天ぷらの衣にも使えるという。

地域の特産品を原料に使うことで、地域連携も推進する。例えば、「さつまいも玄米デニッシュパン」には、新潟県産コシヒカリの玄米と茨城県行方市産紅はるかを使った。

「地域連携による『ご当地玄米食品』は、無限の可能性がある。健康意識、環境意識の高い海外では、玄米の人気が高く、海外展開も視野に入れている。玄米食品を通じて地域貢献するとともに、玄米の『味はいまいち』の常識を変えて、健康にも寄与したい」(小野さん)

「みんなの夢AWARD」は2010年に始まり、これまで多くの事業の成功や社会問題の解決を後押ししてきた。大切にする条件は「社会性・共感性」と「事業性」。共感ができ社会をより良くする内容であるだけでなく、具体的な夢・計画があり、継続できるビジネスモデルであることも重要だ。

「みんなの夢AWARD12」の審査委員

「みんなの夢AWARD12」の審査委員

グランプリには最大2000万円の出資交渉権と賞金100万円、準グランプリには賞金50万円が贈られる。

渡邉代表理事は、「ファイナリスト6人の姿勢や真面目さが伝わってくるプレゼンだった。心から御礼を申し上げたい。夢というのは、生まれてきたから起きる素敵な奇跡。夢をかなえることは、社会を良くすることでもある。無添加グミが育児のストレスを減らし、新しい技術で日本の水産業を守る。アフリカで野球が広がるといった、素敵な奇跡が起こることを期待している。夢をかなえる会として応援していきたい」と総評した。

「夢をかなえる方程式は『遺伝×意思×運×夢』。まわりから応援してもらえるような生き方が大事。夢は大きければ大きい方が良い。さらに挑戦してほしい。『みんなの夢アワード』は3回連続でオンライン開催になったが、2023年は渋谷公会堂で開催して、夢を応援していきたい。積極的な参加を心からお待ちしています」と締めくくった。


社会との関わりや、人や社会、地球を元気にする取り組みなどを紹介します。