「みんなの夢AWARD11」グランプリに「湘南・鎌倉ぶどうの里」の夏目シンゴさん
2021.03.10 社会
社会起業家の発掘・育成・支援を目的として、SDGsにも貢献するビジネスプランコンテスト「みんなの夢AWARD11(主催:みんなの夢をかなえる会)」が3月4日、オンラインで開催され、ファイナリスト6人が全世界に向けてプレゼンテーションを行った。グランプリを受賞したのは、ワイン造りを通じた地域コミュニティの実現をめざす夏目シンゴさん。準グランプリには、技術で世界中に安全な水を届けていくという谷本和考さんが選ばれた。審査員長で、「みんなの夢をかなえる会」の渡邉美樹代表理事は「とてもレベルが高かった。一つひとつが社会問題の解決につながり将来性のあるビジネス」と述べた。
■地域コミュニティ「湘南・鎌倉ぶどうの里」
グランプリに輝いた夏目さんは「鎌倉で地域コミュニティをつくり、高齢者にぶどう栽培・ワイン造りのあるライフスタイルを提案し、健康長寿の可能な社会を実現したい」と夢を語った。
夏目さんが鎌倉でぶどうの栽培を始めたのは2013年。最初は困難の連続であったという。周りに反対されながら、当初ジャングルのような農地の開墾からスタートした。資金が底をつきそうになったときに、地域住民から支援したいといわれた。「ぶどう苗木の会」を立ち上げ、資金を募ることができた。会費は1万円。現在は会費収入が主な収入源であり、今後会員数1000人にして「湘南鎌倉ブドウの里」の実現をめざす。
2020年は120本のワインを造った。今年はブドウ2トンを収穫し、来年2000本のワインを出荷する予定だ。夏目さんは「雨がミネラルを含んでいるため潮風の香りがするのが鎌倉ワインの特長」と嬉しそうに話す。
鎌倉という有数の観光地にあるぶどう畑。今後はレストランの併設のほか、ワインづくりや農業の体験会、マルシェなどの構想もある。「ぶどう苗木の会を参加者同士が学び助け合い感動できる地域コミュニティにして、いつかあのコミュニティで暮らしてみたいといわれるような地域コミュニティを実現したい」とさらなる夢を語った。
■世界中の人が安全な水を手にする
準グランプリの谷本さんは74年の歴史がある株式会社浪速工作所の社長だ。3000以上の商品をこれまでに開発し、世の中の社会課題を「技術」で解決してきた。今回着目したのは「水問題」。途上国では9億人が安全な水を飲めない現状があり、日本でもクリプト感染の恐れがある簡易水道を使う地域もあるという。
谷本さんは「日本の小さな村や限界集落では安全な水が飲めなくなる可能性がある」と指摘。その原因は日本のろ過装置が「大型で高価」なためだ。そこでコンパクトで安価なろ過装置「クリア-ノ」を開発した。
このクリア-ノによって「大型で高価なろ過装置の導入に対応できない小さな村の自治体も安全な水を届けることができるようになる」という。市場規模は1兆5000億円ありシェア20%をめざす。2030年に20億円の売り上げを計画している。
「日本全国に届けた後、途上国へクリア-ノを届け世界中の人が安全な水を飲める世界を作っていきたい。技術はそれを可能にする」
■障がいがあってもスポーツを平等に
元車いすラグビー日本代表、リオデジャネイロパラリンピックで銅メダルを獲得した官野一彦さんは千葉県でユニバーサルトレーニングジムを開いた。一般的なジムの場合、車いすのタイヤ痕がつくという理由で使えなかったり、周りに気を使い思うようにトレーニングできなかったりする。官野さんは「パラリンピックをめざすなかでこの現実にぶつかった。障がいがある人にとって、良い環境ではない」と話す。
官野さんは、サーフィン中の事故で車いすになり一生歩けないといわれたが車いすラグビーに出合い、パラリンピックにつながり、夢にかわった。「障がいがあってもスポーツを平等にできる環境。夢を平等に追えるお手伝い」と語る。
今後は障がい者アスリートが企業などへバリアフリーや健康などについてコンサルティングする事業や、若手を発掘し企業所属のパラリンピック選手を養成する事業を展開していく。
■「ママのスキマ起業」を当たり前に
「ママのスキマ起業を当たり前に」とプレゼンする鶴賀奈穂乃さん。「仕事と育児の両立を73%の人が辛いと感じている。ママが幸せに生き生きと仕事をし、子育てや介護があっても幸せに家族を守れる豊かな社会を育てたい」と話した。
ママのスキマ起業をサポートする「幸せにお金をつくる女性のコミュニティUKA」を設立した。会費は月額3000円。ビジネスに必要な集客・マーケティングなどを学ぶ起業模擬体験や、女性起業家25人が集まり約300本の動画講座などを会員に提供する。「ターゲットは起業初期の女性で約110万人のマーケットがある」という。収入の大きな柱でもある会費を増やすためにも、今後は5年で1万人の会員獲得し、世界進出をめざすという。
■感覚を才能に!五感にやさしい社会をつくる
ファイナリスト最年少の中学3年生、加藤路瑛さんの夢は、「感覚を才能にしたい。五感にやさしい社会をつくる」ことだ。加藤さんは、視覚・聴覚・嗅覚・味覚・触覚の諸感覚が過敏であり日常生活に困難がある「感覚過敏」の当事者。
感覚過敏研究所を立ち上げ、感覚過敏であることを周りに伝えることができる感覚過敏マークをつくり缶バッジなどの商品を制作する。缶バッジは学校や病院、航空会社にも採用された実績がある。新型コロナの影響下でマスクの着用がつらい人のために扇子をヒントに開発された肌に触れない新感覚マスク「せんすマスク」は4600本販売した。
加藤さんは「感覚過敏はストレスも多くつらい。けれど、水の違いなど小さな変化にきづける力がある。この過敏さを社会の役に立てたい。感覚は才能になる」と強く述べた。
■コーヒーかすの資源循環で経済性と環境性の両立
福井県にある株式会社三和商会の山崎周一さんの夢は「コーヒーかすを循環、都市と地方を繋げ、地方産業を活性化させる」ことだ。世界で注目を集めているプラスチックごみ問題。代替製品としてバイオマスプラスチックが広がっている。現在世界のバイオマスプラスチックの生産能力は250万トン、日本は1万トンしかない。
そこで目を付けたのがコーヒーかすだ。日本はコーヒー消費量世界第4位。国内でコーヒーかすは年間100万トン以上ありゴミとして処理されている。「コーヒーかすは十分活用可能な資源だ。コーヒーバイオペレットが製造可能。たい肥や飼料としても使える」と話す。
コーヒーかすは水分を含むため腐りやすく長期保存できないという課題がある。そのため乾燥機を開発して店舗内で長期保存を可能にした。店舗に乾燥機を導入してもらうことで回収効率がアップする。乾燥したコーヒーかすを資源として買い取り、バイオペレットやたい肥化。
「コーヒーかすをゴミとして捨てずに資源として価値を生み出す。経済性と環境性の両立した新しい市場を作りたい」と意気込んだ。
「みんなの夢AWARD」は2010年に始まり、これまで多くの事業の成功や社会問題の解決を後押ししてきた。大切にする条件は「社会性・共感性」と「事業継続性」。共感ができ社会をより良くする内容であるだけでなく、具体的な夢・計画があり、継続できるビジネスモデルであることも必要だ。グランプリには最大2000万円の出資交渉権が得られる。
渡邉代表理事は、「一つひとつが社会課題の解決につながり、しっかりとしたビジネスモデルもある。これまでにないレベルの高さだった。準グランプリの安全な水を届ける活動も、夢の向こうに子どもたちの笑顔が目が浮かぶようだった。グランプリのワイン造りを通じた地域づくりは、SDGsの『住み続けられるまちづくり』に合致している。ワイン造りが広がることで、高齢者の生きがいや地方創生、資源循環にもつながり、大きな可能性を感じた」と評価する。
続けて「日本は少子高齢で働く人が少なくなっている。新型コロナから復活するためには、起業家育成しかない。それをしっかりと応援していきたい。みなさんには起業家モデルの目標になっていただきたい」と激励した。