「ワタミオーガニック」広げ、有機農業の底上げを

2020.08.14 農

ワタミグループは2002年に有機農業を開始し、全国11カ所の農場・牧場(630ha)で有機JAS認証を取得している。2019年には新たに「ワタミオーガニック」ブランドを立ち上げ、2022年までにグル―プで使用する野菜の60%を有機野菜・特別栽培野菜にすることを目標に掲げた。ワタミ六次化推進部農産加工プロジェクトの永山美緒子に同社のオーガニック戦略を聞いた。

■有機農業のプラットフォーム目指す

ワタミ六次化推進部農産加工プロジェクトの永山美緒子

ワタミ六次化推進部農産加工プロジェクトの永山美緒子

――2019年10月に独自の「ワタミオーガニック」マークを開始し、2020年に入って「ワタミオーガニック」の公式サイトを立ち上げるなど、情報発信に力を入れていますね。

専門サイトや通信販売サイトを立ち上げて、外との接点をつくっていきたいと考えています。

これまではワタミファームで生産された有機農産物をグループ内で使っていくことに力を注いでいましたが、それだけではなかなか社会全体に広がりません。情報発信を強化し、「ワタミオーガニック」のブランディングに取り組むことで、なぜワタミがオーガニックに取り組んでいるのか、多くの人に知ってほしいと思っています。

――改めてなぜワタミは「オーガニック」に取り組むのでしょうか。

ワタミグループの事業では「未来につなげていくこと」を大切にしています。農業も同じで、未来につながる「新しい形の農業」をつくっていきたいのです。それが有機農業であり、土本来の力を引き出すことは、実は人にも地球にも効率的なのです。

オーガニックというと、付加価値を高めて高く売るのが一般的ですが、広げていくには収量を安定させて、いかに手ごろな価格で供給していけるかが勝負です。

ワタミとしては有機農業全体の底上げに貢献していきたいですね。2021年3月にオープン予定の「ワタミオーガニックランド」もその一環です。ワタミファームの農産物だけではなく、全国各地の農産物や加工食品を取り扱いたいと考えています。

有機JAS推進とともに、地産地消やオーガニックをベースにしたワタミなりの新しい基準をつくり、拡大するための仕組みづくりにも取り組んでいきます。

■アイスにドリンク、オーガニック商品が充実

写真=北海道瀬棚の有機牛乳で作ったアイスクリームとフローズンヨーグルトセット

北海道瀬棚の有機牛乳で作ったアイスクリームとフローズンヨーグルトセット

有機しょうがを使った「有機しょうが湯」や生姜シロップ

有機しょうがを使った「有機しょうが湯」や生姜シロップ

――一般向けにはどのような商品を販売されていますか。

「ワタミオーガニック」には2つの基準があります。

「ワタミオーガニック」は国産オーガニック原料を使用した有機JAS認証の加工品です。シンプルな原料と加工で素材本来の美味しさを活かしました。

「無塩有機トマトジュース」(500ml、税込1058円)や「有機アイスクリーム&フローズンヨーグルト」(4個セット、税込3240円)、「有機しょうが湯」(8g×10袋、税込918円)などを展開しています。

もう一つ「ワタミナチュラル」は、国産オーガニック原料を一部に使用し、添加物を極力削減した体に優しいラインアップです。素材が持つ魅力を活かし、気軽に取り入れやすい商品に仕上げました。

「キャロット&オレンジ」ジュース(1本160g×15本、税込3888円)や「生姜シロップ(レモン・黒糖)」(2本セット、税込3240円)、「クリーミープディング」(100g×5個、税込5400円)などを展開しています。これから徐々に製品を増やしていく予定です。

――オーガニックを気軽に取り入れられますね。ワタミが有機農業に参入して約20年になりますが、これまでの手応えはいかがでしょうか。

2019年11月に「和民」「坐・和民」「ミライザカ」「鳥メロ」全国約390店舗で、オーガニックマークの表示をスタートしました。「アンチョビオーガニックキャベツ」や「オーガニックさつまいもフライ」といったメニューを出し、ご好評により予定よりも早く売り切れました。

有機生乳や卵をつかったクリーミープディングは、百貨店やギフトカタログで取扱われており、受注数も少しずつ伸びています。

少しずつワタミオーガニックが認知され始めてきた実感があります。ワタミファームで作った農産物・加工品の販路開拓と同時に、農場の拡大も課題ですね。

■「都市部と農をつなげたい」

きく芋の栽培。生長が早く、草丈は3mにもなるほど繁殖力が強い

きく芋の栽培。生長が早く、草丈は3mにもなるほど繁殖力が強い

栽培したきく芋はきく芋茶や、きく芋焼酎などとして販売予定

栽培したきく芋はきく芋茶や、きく芋焼酎などとして販売予定

――国内ではまだ珍しい根菜「きく芋」の生産を2020年5月に始めたそうですね。

はい、きく芋をワタミオーガニックの目玉商品にしたいのです。

東御農場(長野県)、倉渕農場(群馬県)、山武農場(千葉県)、白浜農場(千葉県)などで栽培し、どこの土と相性が良さそうか、検証しながら進めているところです。今年は40トンの収穫を見込み、「ワタミの宅食」や外食店舗のメニューとして取り入れる予定です。

きく芋には水溶性食物繊維「イヌリン」が豊富に含まれ、血糖値上昇の抑制や腸内環境の改善といった効果が期待されています。腸にはたくさんの細菌がいますが、腸内バランスを整えることと、微生物の働きを生かす有機農業の土づくりには相通ずるものを感じています。

土本来の力を引き出せれば、生産コストが抑えられるはずです。まだ発展途上にありますが、「環境に良いこと」は「経済的合理性がある」ということも示していけたらと思います。

――「ワタミオーガニック」の今後の展開について教えてください。

自分たちが食べるものを作っている現場なのに、私自身もまだまだ農業や土のこと、知らないことばかりです。商品を買っていただくだけではなく、ワタミオーガニックを通じて、食やオーガニック、農業について知り触れるきっかけにしていきたい。「都市の暮らし」と「農」をつなげていけたらと考えています。

農業は、目に見えない微生物や、コントロールできない天候との戦いでもあり、簡単ではありません。一方で、価値観を広げてくれる場でもあると思っています。自然の力を借りて0から1を生み出す農業は、生き方の多様性にもつながっていくのではないでしょうか。

そのきっかけづくりに貢献していきたいです。


社会との関わりや、人や社会、地球を元気にする取り組みなどを紹介します。