「みんなの夢AWARD10」、ケニアの貧困層に小口融資を提供する小林嶺司さんがグランプリ

2020.04.15 社会

「みんなの夢AWARD10」に出場したファイナリストら

「みんなの夢AWARD10」に出場したファイナリストら

社会課題を解決するビジネスアイデアを披露する「みんなの夢AWARD10」が3月26日に開かれた。これまでファイナリストは約2000人の聴衆を前にプレゼンテーションしてきたが、今年は新型コロナウイルス感染症の予防の観点から、オンライン動画配信で実施された。ファイナリスト6人がプレゼンテーションを行った結果、グランプリにはケニアの貧困層にマイクロファイナンスを提供する小林嶺司さん、準グランプリにはシニア世代の働く環境づくりに取り組む廣川絵理花さんが選ばれた。

2010年にスタートした「みんなの夢AWARD」(主催・みんなの夢をかなえる会)。これまで「夢を追いかける起業家の発掘・育成・支援」と「夢を追いかける起業家の姿を見て自らも夢を持つ(若者への啓発)」という2つの目的で実施してきたが、10回目を迎えるにあたって、「夢を追いかける起業家の発掘・育成・支援」を強化することになった。

ファイナリストに対する事業計画策定支援、プレゼンテーション支援はもちろんのこと、AWARD受賞者・優秀者には継続的に寄り添い、協賛企業様とのビジネスマッチングの場や、資金的な支援や経営への継続的な支援など、事業の成功を強力にバックアップする。

貧しい小規模事業者に1000円から融資

ケニアからオンライン動画で参加した小林嶺司さん

ケニアからオンライン動画で参加した小林嶺司さん

グランプリに選ばれた小林嶺司さんは、東アフリカにあるケニアに移住して1年になる起業家だ。失業率が40%に上るケニアで、お金を借りられない小規模事業者に1000円から融資するマイクロファイナンスを手掛ける。

小林さんは20歳のころ、バックパッカーとしてアフリカを横断し、アフリカの活気や人柄の良さに魅せられた一方で、だまされることも多かった。

その背景には、銀行が貧困層にお金を貸すことを禁止していたため、誠実に事業をしている人でも融資を得られずに損をし、貧困の連鎖が続くという現状があった。小林さんが出会った服の行商をしていた23才の男性は、朝から晩まで働いても月収は5000円。ケニアの平均月収4.5万円と比べても低い。

そうした現状を知り、小林さんは「まじめに努力をしている人が得をできる社会になってほしい」という思いから、信用を蓄積できる「デジタルパスポート」を発案。貧困層に小口融資を実施し、信用を蓄積し、大きな融資を受けられるようになることを目指す。融資を返すことで信用パスポートのスコアが上がる仕組みだ。

すでに美容師やキオスクオーナーなど637人に小口融資を行い、返済率は99.1%に上っているという。将来的には国際的な「越境型信用パスポート」にすることを目指す。

小林さんはグランプリを受賞して「すごく驚いている。光栄な賞を頂けて嬉しい。自分だけの夢だったのが、みんなの夢に変わった気がする」と喜びを語った。グランプリ受賞者には、最大2000万円の出資交渉権が贈られる。

  シニア世代が働くことを当たり前に

準グランプリを受賞した廣川絵理花さん

準グランプリを受賞した廣川絵理花さん

準グランプリを受賞した廣川絵理花さんは、特別養護老人ホームで機能訓練に力を入れている。「年を取っても幸せに生きていくには、最後まで仕事をしたり運動したりすることが大切」という思いから「シニア世代が働く環境を当たり前にする」ことを目指す。

廣川さんの両親は足を悪くしたことで、仕事や地域のボランティアに参加することが難しくなり、社会参加の場がなくなった。70代で認知症を発症した両親について、「もし生涯現役だったら、認知症にならなかったのではないか」と振り返る。

そこで廣川さんは2014年、シニアスタッフで構成するコールセンターの実証実験を開始。2020年には第一センターを本格稼働し、月間売上高500万円を目指す。2023年には第二センターの設立、2030年には団塊の世代ジュニアの老後に向けてシニア向け仕事付き高齢者向け住宅を計画している。

「一人でも多くのシニアにできるだけ長く働く環境を提供していきたい。それは若者の未来のためにもなると信じている」(廣川さん)

更年期ケアを明るく前向きに

更年期ケアに取り組む永田京子さん

更年期ケアに取り組む永田京子さん

更年期トータルケアインストラクターの永田京子さんは、「更年期ケアを映画で届ける」という夢を描く。これまでにYouTubeに「ちぇぶらチャンネル」を開設したり、演劇や漫才を通して更年期障害に関する情報を発信したりしてきた。

永田さんは「英語では更年期を『ザ・チェンジ・オブ・ライフ』と表現する。人生の転換期として更年期を前向きにとらえてほしい」と強調する。

永田さんが更年期のケアに取り組む背景には、出産後の女性のサポートをするなかで40歳以上の女性の心身の不調を知ったこと、母が更年期障害でうつ病になったという経験がある。

更年期に心や体に不調を感じる女性は90%に上るが、我慢する人が大半だという。対策ケアには正しい知識だけではなく、「周囲の理解も大切だ」と考え、映画「ステキなコーネンキ」を製作し、100万人に届けることを目指している。

「更年期は男性も女性も全員が通る道。更年期障害は予防と対処ができる。少子高齢化が進み、社会保障費が増大するなかで、一人ひとりが健康に対して知識を持つことが必要不可欠」と、永田さんは呼びかけた。

■  2030年までに障がい者雇用・就労1万人へ

障がい者雇用の創出に取り組む鈴木比呂さん

障がい者雇用の創出に取り組む鈴木比呂さん

日本の障害者手帳保有者は963万人、そのうち雇用施策対象者数(18~64才の在宅者)は376万人に上る。だが、未就労者は300万人と、仕事に就ける人は一部に限られている。

さらに、法定雇用率未達成の企業は54.1%、雇用義務対象企業10万社のうち1人も雇用していない企業は33%に上り、障がい者が働く環境が整っているとは言い難い現状だ。

そうしたなか、空調設備業を営む鈴木比呂さんは、2030年までに1万人の障がい者雇用・就労をつくることを目指す。鈴木さんは5年前、完全密閉型の水耕栽培プラントの設計・施工の研究を始めた。

3年ほど前に室内多段式レンタル水耕ファーム「&(アンド)ファーム」を開発し、障がい者雇用支援サービスを手掛ける。この3年間で&ファームを通じて約150人の障がい者の雇用を創出。定着率も99%に上るという。

鈴木さんは「障がいがある人もない人も、共に働く社会の実現を目指している。やりがい、生きがいのある仕事を生み出し、障がい者を『納税者』にしたい」と意気込んだ。

■  虐待、不登校、うつ病、認知症をゼロにしたい

ゲーム感覚の五感脳トレーニングを開発した武田規公美さん

ゲーム感覚の五感脳トレーニングを開発した武田規公美さん

「私の20才からの夢は、虐待、不登校、うつ病、認知症ゼロの地域社会づくり。そのために、ゲーム感覚の『五感脳トレーニング』で、モチベーションをアップして、自分で考えて、行動できる人を増やしていきたい」

こう語るのは「褒めて認め合える社会」を目指す武田規公美さんだ。父親から15年間、虐待を受け、「否定されて育ち、生きる希望がなかった」(武田さん)。虐待が原因で言語障害を発症し、それがきっかけでいじめられ、不登校にもなった。

武田さんは「学校教育は暗記教育。私は覚えることが苦手で、ゲームで勉強できたら良いのにと考えていた。そこで、10年かけて『五感脳トレーニング』を開発。大人から否定的な言葉をかけられた子どもでも、ほめて認め合える経験をすれば、自信を持ち積極的に行動できるようになる。連想ゲームで作文能力がアップした児童もいる」と説明する。

企業向けにも展開し、うつ病予防にもつながったり、離職率が下がったり、営業成績が上がったりした事例も出てきた。

武田さんは「五感脳トレーニングを広めるために皆さんの力を貸してほしい」と訴えた。

■  エンターテインメントの力で投票率を上げたい

社会課題とエンターテインメントを掛け合わせる高村治輝さん

社会課題とエンターテインメントを掛け合わせる高村治輝さん

8年ほど前から音楽フェスを手掛けてきたイベント会社の代表を務める高村治輝さんは、「政(まつりごと)を祭りにする」ことに取り組む。

高村さんは「選挙の投票率は48%(2019年7月の参院選)。SDGs(持続可能な開発目標)の認知度は27%。これでは社会全体を巻き込んでいるとはいえない。啓発イベントに有名人を呼ぶと、報告書はきれいにまとまるが、本当に投票率が上がるのだろうか」と疑問を投げかける。

では、どう変えていけるのか。「『アイス・バケツ・チャレンジ』では、エンターテインメントの力でたくさんの人が動いた。社会課題とエンターテインメントを掛け合わせて、社会を変えていきたい」(高村さん)。

そこで、「政(まつりごと)を祭りに変える」「vote_for プロジェクト(#政を祭に)」を立ち上げた。投票済証明書をもらい、それを提携店に持っていくと、無料のサービスや割引が受けられる仕組みだ。

7月の東京都知事選、11月の大阪府知事選を前に、「選挙割り」のプラットフォーム化を目指す。

「みんなの夢をかなえる会」の渡邊美樹理事長は、6人の発表を終えて、「これまでの歩みが、これからの夢につながっていることに感動した。一人ひとりの夢の軌跡を感じることができた。夢は方向性であり、大きさである。今後も「夢AWARD」を続けていくが、応援してくれている人すべてに感謝したい」と締めくくった。


社会との関わりや、人や社会、地球を元気にする取り組みなどを紹介します。