「酒蔵ホテル」で日本を元気にしたい――「みんなの夢AWARD9」グランプリ
2019.02.26 社会
ワタミが特別協賛する日本一の夢の祭典「みんなの夢AWARD9」が2月25日、舞浜アンフィシアターで開かれた。ファイナリスト7人は約2,000人の観衆、審査員、協賛企業を前にプレゼンテーションを行った。その結果、グランプリに「酒蔵ホテル」を企画する田澤麻里香さん、準グランプリにAEDの普及に努める岡田紗季さん、100食限定の飲食店を営む中村朱美さんが選ばれた。田澤さんは「これから地元の人と、成功する事業をつくっていきたい」と涙を浮かべながら決意を語った。
「みんなの夢AWARD」グランプリ受賞者には、最大2,000万円の出資交渉権と「夢支度金」100万円が贈られる。さらに、ファイナリストは、夢に共感した協賛企業からの支援も受けられる。
グランプリを受賞した田澤さんは、「地域住民が自信と誇りを取り戻し、持続可能なまちづくりを観光の力で実現したい」という思いで、2019年冬に地元・長野で酒蔵ホテルをオープンする予定だ。
国は訪日外国人4000万人、消費額8兆円を目指しているが、田澤さんは「地方の人は資源もノウハウも何もないと思っている。まとめ役もいない。だが、何よりも時間がない。地方がなくなるのは、日本人のアイデンティティの喪失にもつながる」と危機感を募らせる。
「インバウンドの需要」「国による地域支援」「日本酒ブーム」、いまこのチャンスを逃してはいけない――。こうした思いで、酒蔵を利用したホテルを造ることを発案した。日本酒風呂、酒蔵巡りツアーや蔵人体験なども企画しているという。田澤さんは「全国に130ある酒蔵を中心に、全国を元気にしていきたい」と力を込めた。
■ AEDで命を救いたい
準グランプリを受賞した岡田さんは、忘れられない経験がある。3年前のある日、祖父が散歩に行く直前に突然倒れ、心停止した。当時高校生だった岡田さんは、何もできなかったことを悔しく感じた。
日本では7.5分に1人、心臓突然死で亡くなっているという。日本にはAED(自動体外式除細動器)が60万台設定されている一方で、AEDを使って命が救われたのはたった600人。AEDの場所が分からない、届けるまでの時間がかかるといった課題がある。そこで、岡田さんは地図誘導でAEDを届けるアプリ「AEDi」を開発した。人が倒れたとき、119番通報すると、消防署からAEDiに位置情報を発信。AEDiを搭載したAEDのアラートが鳴り、その近くにいる人が地図誘導で倒れた人のところまで届ける仕組みだ。これにより、到着時間を大幅に短縮できるという。岡田さんは「AEDによって救える命がある。全国普及に力を入れていきたい」と意気込んだ。
■ 1日100食限定で働きやすい飲食店に
「飲食店で働いたらあかんで」。飲食店を営む両親からそういわれて育った中村朱美さんは、働きやすく、持続可能な飲食店のあり方に挑戦している。現在は京都で1日100食限定の「佰食屋」を運営。100食限定ランチにすることで、食品ロスも出ず、従業員は残業なしで18時までに退勤できる。仕入れも毎日同じ量なので、地元業者も楽だという。
国産牛と国産米にこだわり、整理券を配布するほどの人気店だが、2018年に発生した地震や台風の影響で、客足が半分になった。それでも50食は売れることに気付き、2分の1の限定50食にした飲食店モデルを地方で展開することを計画している。「利益を目指すよりも、低空飛行機でも黒字にこだわる。働きがいも経済成長もあきらめず、持続可能な働き方を提案したい」(中村さん)。
■ 宇宙と教育と農業のトライセクターリーダーに
「昨日食べた食事で、生産者の顔が思い浮かびますか」。ファイナリストの坪井俊輔さんは、来場者に質問を投げかける。「せっかく作った農作物もだれが食べている分からない。農家は孤独なのではないか」。さらに1970年に1035万人いた農家は、2016年には192万人にまで減少。そのうち65歳以上が6割を占める。
農業の課題を解決したいと考えた坪井さんは衛星データと農業データを用いて、農学的に農業を最適化するアプリケーション「Sagri」(サグリ)を開発した。サグリは、土壌データや気象情報などを利用者に提供し、農薬、肥料の量など農地に合わせて生産方法を最適化できるサービスだ。坪井さんは「『最適な時期に、最適な農機材を』を目指している。将来的には完全自動農業にもつながっていくのではないか」と語った。
■ 「学食革命」を起こすフードマイスター
最年少のファイナリストとなった高校生の及川凛々子さんは、「学食革命」を起こすことを目指している。きっかけは、15歳のとき、留学先していたオーストラリアとニュージーランドでオーガニック食品やスーパーフードに出合ったことだった。それまでは、ダイエットのためにカロリー制限だけを行い、ニキビやリバウンドに悩み、心がぼろぼろだったという。無添加、バランスを心掛けるようになり、食を変えたことで心も体も健康になってきた。
「こんなにも食が大切なのに、成長期の子どもが食べる学食は大丈夫なのか」。こう考えた及川さんは、炭水化物中心の学食からたんぱく質や野菜が豊富な学食に変え、栄養価の高いスーパーフードを取り入れることを提案する。「健康な人が増えれば、医療費の削減にもつながる。食の大切さを改めて考えてほしい」と訴えた。
■ 「外遊び」を日本の文化に
池嶋亮さんは、「チャンバラ合戦―戦IKUSA―」という外遊びを開発した。腕にボールを付け、スポンジ製の柔らかい刀でそのボールを落とし合うゲームだ。子どもだけではなく、大人も楽しめる。企業向けにも展開し、「遊びを通じて関係性を再構築することができる。チームビルディングにも役立つ」と言う。
観光企画としても好評で、関ケ原では、「平成リアル関ケ原の合戦」を行った。遊びを通じて歴史の面白さを学べるのも特徴だ。IoTデバイスとも連動させ、デジタルとアナログの融合を目指す。池嶋さんは、「遊びはこれまで生産性がないと思われてきたが、これから遊びの価値は再認識されるだろう。遊びの機会は人と人をつなぎ、人生を豊かにする」と強調した。
■ 「バリア・アドベンチャー」で困難を乗り越える
交通事故で車イスとなった木戸俊介さんは、「バリア・アドベンチャー」で世界を「超ポジティブ」にすることを目指す。バリア・アドベンチャーは、バリアを乗り越えることを楽しむこと。例えば、出張先のビジネスホテルでは、車イスではユニットバスに入りづらい。どうにか工夫して、乗り越えることを楽しもうという考え方だ。
木戸さんは「東京オリンピック・パラリンピックに向けて日本のユニバーサルデザインも進んできたが、限界がある。例えば、車イス利用者にとって段差は障がいになるが、視覚障がい者にとっては目印になる。ハード面で落としどころを見つけるのは難しい。だからこそ、乗り越えることを楽しむ『バリア・アドベンチャー』が重要だ」と話す。
木戸さんが企画した、ビーチマットと水陸両用車を使ってみんなで海に入るプログラムは、年間1200人が集まるプロジェクトに成長した。車イス農家の実現に向けて、車イスでの田植え企画もある。今後、障がい者も健常者も一緒に楽しめるレジャー施設「チャレンジ・パーク」を神戸に立ち上げることを目指している。
「海に行きたいと思っても、障がいを持つ家族に気を使って遊びに行けなかったという友人の経験談を聞いた。チャレンジ・パークは障がい者だけでなく、その家族や健常者にとっても意味がある施設になるはず」と意気込んだ。
「みんなの夢AWARD9」には、過去のファイナリストも登壇し、これまでの歩みや今後の決意を語った。みんなの夢AWARDは、次回から「発掘」から「育成」に形を変え、開催される予定だ。