「聞こえないからこその強み」を生かす ――「みんなの夢AWARD8」グランプリ

2018.02.27 社会

グランプリを受賞し王冠をかぶる尾中友哉さん(中央)とファイナリストたち

グランプリを受賞し王冠をかぶる尾中友哉さん(中央)とファイナリストたち

ワタミが特別協賛する日本一の夢の祭典「みんなの夢AWARD8」が2月26日、舞浜アンフィシアターで開かれた。ファイナリスト7人は約2,000人の観衆、審査員、協賛企業を前にプレゼンテーションを行った。その結果、グランプリに尾中友哉さん、準グランプリに竹本勝紀さんが選ばれた。グランプリ受賞者には、最大2,000万円の出資交渉権と「夢支度金」100万円が贈られる。さらに、ファイナリストは、夢に共感した協賛企業からの支援も受けられ、夢の実現に向けてさらなる一歩踏み出す。

聴覚障がいを持つ両親のもとで育った尾中友哉さん

聴覚障がいを持つ両親のもとで育った尾中友哉さん

グランプリを受賞した尾中さんは、結果発表を受けて「心の底からやる気が湧いてきた。両親がきっかけをくれた」と涙を浮かべた。尾中さんは、聴覚障がいのある両親を持ち、手話の家庭で育ったため、自身は耳が聞こえても4歳まで話すことができず、コミュニケーションを取るのに苦労した。

プレゼンテーションのなかで、尾中さんは「コミュニケーションが取れないと人は孤独を感じる。社会から孤独をなくしたい」と訴えた。「本当のコミュニケーションとは何か。本気で伝え、本気で相手を理解しようとすることではないか」と投げかける。

尾中さんは声や言葉を使わない「無言語コミュニケーション」プログラムを開発し、これまでに企業研修として約40社に提供した。研修を受けたある人から「久しぶりに部下の目を見た。指示したとおりに動いてくれないとばかり思っていたが、部下の考えていることを理解しようとした」と聞き、手応えを感じた。

尾中さんは、聴覚障がいを持ちながら、10年間黒字で喫茶店を経営する母の背中を見て育った。「人の表情から感情を読み取る能力が高く、きめ細やかな接客は評判が良い。『聞こえないからこその強み』があるはず」。

尾中さんは「音のない世界」と「音のある世界」の架け橋役になることを夢に描く。受賞後、「生んでくれてありがとう」と、会場にいる両親に手話で感謝の気持ちを伝えた。

■地域を元気にする鉄道マイスター

銚電でユニークな取り組みを進める竹本勝紀さん

銚電でユニークな取り組みを進める竹本勝紀さん

準グランプリに選ばれた竹本勝紀さんは、税理士事務所の代表を務める傍ら、銚子電気鉄道株式会社の代表でもある。赤字ながらも、本格的なおばけやしき電車、イルミネーション電車、電車プロレスなど、工夫をこらして経営を続けている。

千葉県銚子市の人口は減少し続け、竹本さんは「このままでは街が消えてしまう。首都圏にありながら、消滅可能性都市として危機的な状況だ」と説明する。そこで、竹本さんは「ふるさと運転士」事業を立ち上げ、免許を取得した鉄道ファンに本物の電車を運転してもらい、新たな生きがいづくりとふるさと貢献を両立させるプランを計画。「ローカル鉄道の力で地域を元気にし、日本を明るくしたい」と夢を語る。

■観光を通じて日本代表を増やす

ファイナリストは約2,000人の観衆を前に夢を語る

ファイナリストは約2,000人の観衆を前に夢を語る

ファイナリストの一人、岩井友美さんは京都学生通訳ガイドとして世界中の観光客に京都を案内してきた。そうした経験から、日本初のガイド育成専門事業の立ち上げを目指す。2018年1月4日に通訳案内士の法改正があり、資格がなくてもガイドとしての報酬を得られるようになったことも契機になった。「ガイドで必要なのは、英語力やコミュニケーション力ではない。何を伝えたいか明確にし、対話すること」と話した。

■「伊勢型紙」の産地・三重県白子をクリエーターの拠点に

「伊勢型紙」の産地・三重県白子を世界中のクリエーターが集うまちにすることを目指すのは、木村淳史さんだ。日本には225の伝統工芸があるが、平均年齢は70代後半で、後継者育成や商品開発の課題を抱えている。祖父も伊勢型紙の職人だったが、生活のために廃業したという。「業界全体が終わり」というムードに包まれているなか、木村さんは2017年5月、伊勢型紙職人を体験できるゲストハウス「テラコヤ伊勢型紙」を開始した。2020年までに工房とショップの設置を目指している。

■シングルマザー支援で貧困家庭を支える

究極の塩だし「そば助」を展開する八木大助さんは、貧困家庭やシングルマザーの家庭を応援する「命をつなぐ飲食店協会」の拠点を全国につくることを目指す。八木さん自身も、父が亡くなり、母子家庭で育った。そこで、シングルマザー基金を設立し、フランチャイズロイヤリティーの3分の1を寄付するとともに、フランチャイズオーナーとしてシングルマザーが年収500万円を稼げるようなビジネスモデルの構築を目指す。八木さんは「日本一社会貢献する、世界一おいしいそばを提供したい」と語った。

■「釣りガール」を倍増し、漁村を再生

静岡県南伊豆町から参加した松原淑美さんは、釣りを通し、海や魚への関心を高めようと「釣りガール倍増計画」を掲げる。松原さんは30歳を過ぎたころから体調を崩すようになった。会社を辞める1年ほど前に釣りに出合い、伊豆の海で釣りをしていると、身体の辛さが忘れられたという。そこで、過疎化の激しい南伊豆の漁村で、地域おこし協力隊として活動を始めた。現在は釣り体験、地域と触れ合えるゲストハウスの開業準備を進めている。魚離れが進んでいるが、「2018年に釣りをした人は887万人、釣り市場は2012年から上昇傾向にある。女性の力でもっと盛り上げられるのではないか」と話した。

■「ともにつくるを楽しむ人」を増やしたい

くわばらゆうきさんは、東日本大震災をきっかけに、岩手県陸前高田市で起業。住民とともに集会所をセルフビルドで再建した。「DIT(do it together/一緒につくろう)」をコンセプトに掲げ、個人宅、オフィス、お店などをみんなでつくる「空間づくりワークショップ」を企画運営している。くわばらさんは「ともに作るという工程を通して、みんながつながっていくことを目の当たりにして感動した。みんなでつくるという光景が全国で見られるようになれば」と展望を語った。だれでも簡単に楽しめる国産材の家具・内装キットなども開発している。

大学生によるよさこいも会場を盛り上げた

大学生によるよさこいも会場を盛り上げた

3月17日は、「みんなの夢AWARD」初の地方版として、岩手県陸前高田市で「陸前高田市復興ビジネス・プロジェクト」が開催される。

「みんなの夢AWARD8」の模様は3月18日にJ:COMテレビで放送される。


社会との関わりや、人や社会、地球を元気にする取り組みなどを紹介します。