シングルマザー5人が実現したい夢語る

2017.06.22 社会

シングルマザー5人が夢をプレゼンテーションする「シングルマザー・パワードリーム」が6月17日、BARU&DINNING GOHAN新宿三丁目店で開かれた。日本シングルマザー協会(横浜市)とみんなの夢をかなえる会(東京・大田)が主催した。その結果、バスガイドや運転士の経験を活かし、介護施設で「居ながら観光バス」を展開している田嶋恵利子さんが優勝した。

「居ながら観光バス」事業を立ち上げた田嶋恵利子さん(中央)

「居ながら観光バス」事業を立ち上げた田嶋恵利子さん(中央)

シングルマザー・パワードリームは、日本シングルマザー支援協会がシングルマザーの夢を応援しようと、今年初めて開催された。優勝者は、2018年2月に行われる「みんなの夢AWARD8」の三次審査に進むほか、ソーシャルビジネス・ドリームパートナーズ(東京・大田)との出資交渉権を得られる。

審査委員長はみんなの夢をかなえる会の渡邉美樹代表理事、審査委員はカレイドジャパンの高島辰美代表取締役、明治学院大学大学院の菅正広教授、リンクリンクの大津たまみ代表取締役、シグマロジスティクス女性活躍推進部の須田淡子執行役員部長、日本シングルマザー協会の江成道子代表理事が務めた。

■娘の一言がきっかけに

優勝した田嶋さんは、18歳から3年間バスガイドを務め、21歳から観光バス運転士となった。現在は日本初の女性専用観光バスの専属運転士として働いている。25歳で結婚・出産したが、28歳で離婚。シングルマザーとして、子どもをバスに乗せながら、バスを運転する日々が続いた。

「お母さんが笑わないと私もさみしい」。田嶋さんが変わるきっかけは、娘の一言だった。

「笑顔が大事」だと思い直し、自分にできることを探すなかで、24年前に新人研修で慰問した介護施設を思い出した。施設で出会った高齢者の笑顔が忘れられなかったという。そこで、目の前の人を笑顔にしたいという思いで、2016年に正社員から嘱託社員になり、「居ながら観光バス」事業を立ち上げた。

居ながら観光バスは、バス旅行の疑似体験。バスで太宰府天満宮(福岡県太宰府市)に向かう道のりを映像に流しながら、スクリーンの横で田嶋さんがバスガイドとして案内する。手水で手を清め、参拝する様子も実際の映像として流す。

田嶋さんは「VR(バーチャルリアリティ)や機械では表現できない、バスの乗車体験。介護施設だけではなく、病児病棟でも活用できるかもしれない」と説明する。「いまはボランティアだが、ビジネスモデルを構築し、みんなの夢AWARDの舞台に立ちたい」と意気込んだ。

■絵本セラピーで子育て支援

「お前なんか生まれなければ良かった」

こう言われながら育った鈴木由香さんは幼少時、母親から暴力を振るわれ、自己肯定感がないまま大人になったという。「こんな母親にはなりたくない」。そう思いながらも、自分が母親になったとき、同じようなことを繰り返してしまっていた。「どうしてこんなことに」という自己嫌悪が常に付きまとい、夫とも離婚することになった。

鈴木さんは「わんぱくな息子の子育てと離婚の悩みが同時に起こり、精神的に孤立していった。育児本も参考にならない。誰からも子育てを教えてもらえなかった」と振り返る。

鈴木さんは自身の経験から、2014年に子育て支援事業をスタート。これまでに2600組以上の保護者に会い、1500件以上の相談を受けた。現在は価値観を探るカードワークや、内面と向き合う気づきの絵本セラピーなどの講座や個別カウンセリングを提供している。

「子育ては、ママも主役。子どもの個性を生かした子育てができたら、負の連鎖が減るはず」と期待を込めた。

■「ホームステイハウス」の運営で収入向上

体が弱く就労に不安があったおおのめぐみさんは離婚後、亡き父から大家業を引き継いだ。現在は9室のシェアハウスを運営している。

「体が弱い、子どもに手がかかるなど、長時間働けるシングルマザーばかりではない」。そう考えたおおのさんは、「シングルマザーホームステイハウス」を提案する。戸建てやマンションの一室を民泊として貸し出し、宿泊代を得る仕組みだ。おおのさんは「家事の延長とおもてなしの心で、収入を得ることができる」と説明する。

だが、シングルマザーが物件を購入するのは現実的ではない。そこで、おおのさんは、空き家を持っている大家などとシングルマザーをコーディネートする事業の準備を進めている。

おおのさんは「日本語、料理、折り紙、書道、自転車を貸し出す、漫画を貸す――など、工夫次第でオプショナルを付けることもできる。子どもには、外国語やグローバルな価値観を学ぶ機会にもなる。親も子ども輝いてほしい」と語った。

■日本のエーゲ海で薬膳カフェ

飲食店で働く熊田めぐみさんは3年前、ぎっくり腰になり、3週間ほど寝込んだという。だが、助けてくれない中国人夫の姿を見て離婚を決めた。娘はひどいアトピーで、治療を続けていたが、再発を繰り返していた。そんなときに出合ったのが、「自然療法」「クレイ」「薬膳」だった。

熊田さんは「代替療法があることを知ってほしい」という思いで、日本のエーゲ海・岡山県瀬戸内市にある牛窓で薬膳カフェを開くことを目指す。「地方には魅力がたくさんある。地産地消にも取り組み、地域を活性化できれば」と語った。

■相談したい内容を「自分手帳」にまとめる

「相談したいことはあるのに、相談したいことが分からない。相談窓口でいやな言葉を掛けられたことはありませんか」

そう問いかけるのは、松田めぐみさんだ。「言いたいことがたくさんありすぎて、自分の意見をまとめきれず、うまく伝えられない。担当者が代わり、一から説明することが何度もある。一方で、相談を受けている側も悩みがあることを知った」

そこで、松田さんは自分についてまとめる「自分手帳」を提案する。相談窓口との共有ツールとして活用することで、互いのストレスをなくし、適切なアドバイスを受けられるようにする。

「自分の洗い出しからキャリアアップにつなげ、経済的な自立を支援する仕組みを構築したい」(松田さん)

「シングルマザー・パワードリーム」の優勝者は、2018年2月に行われる「みんなの夢AWARD8」の三次審査に進む

「シングルマザー・パワードリーム」の優勝者は、2018年2月に行われる「みんなの夢AWARD8」の三次審査に進む

日本シングルマザー支援協会は、「お金を稼ぐ力を養う」「共感しあえるコミュニティ」「再婚という幸せ」を3つの柱に、シングルマザーの自立支援を行っている。江成代表理事は、「できることを探していくという思考が大切。120万人いるシングルマザーの背中をこれからも押していきたい」と語った。


社会との関わりや、人や社会、地球を元気にする取り組みなどを紹介します。