「一代で終わらせない」、ワタミファームが支える有機農業(前編)

2015.07.08 農

ワタミファームが運営する山武研修センター

ワタミファームが運営する山武研修センター

耕作放棄地の拡大、食料自給率の低下、過疎化など、農業が抱える問題は複雑です。そうしたなか、農業生産法人(有)ワタミファームは、全国12カ所に農場・牧場を展開し、地元農家とともに有機農業の活性化に力を入れています。同社は地域内で土づくりから農産物の加工・流通を完結させる「有機循環型モデルタウン」づくりに取り組んでいますが、その現場となる千葉県北総地域を取材しました。(インタビュー団体Lien=小澤泰山)

ワタミファームは、北海道から九州まで全国12カ所に総面積約800haの広大な農場・牧場を所有しています。

そのうちの一つ、千葉北総エリアでは、畑作・育苗に加え、集荷・販売を行うことができる「集荷センター」を運営。「有機循環型モデルタウン」づくりに取り組んでいます。

10年近く有機農業を行う森正延さん

10年近く有機農業を行う森正延さん

ワタミファームの立ち上げ時期から携わり、10年近く有機農業を行う森正延さんは、「培った知恵が、継ぐ人がいないためになくなってしまうのは、有機農業の成長を考える上でとても非効率です。現在、多くの農家は跡取りが不足してしまっていて、そのノウハウが継承されずにいます」と問題点を指摘します。

「農業の成果は、一年経って初めてわかるもの。時間がかかるからこそ、データをしっかりとって次の年に活かすことが必要です。企業の場合、記録やデータなどしっかりと資料を残していることで、例え後任が農業経験の少ない者でもまた農業をすることができるのです」(森さん)

「農家の方の知識の多くは『口承』です。というのも、農業は天候、土の触った感覚、におい、様々な要素で語られているし、ひとつの農家が農業をしながらノウハウをデータとして残すのは大変。だからこそ、しっかりとしたデータを残し、日本農業技術の継承と成長を促す役割を企業が担うことが求められているのです」(森さん)

■耕作放棄を防ぎ、農地を有効活用する

千葉北総エリアでワタミファームが目指す「有機循環型農業」の仕組み

近年、高齢者不足や従事者の高齢化で、使われなくなった土地や、手入れが行き届かない土地が増えてしまっています。

日本の農地面積は昭和36年頃は約609万haもありましたが、減少を重ね、平成25年度には約416万haとなっています。日本の食料自給率も73%(昭和40年度)から39%(平成25年度)にまで減少しています。これは主要先進国で最も低い水準です。

国際的な食糧不足が危惧されている今、日本は食料自給率の向上にむけて、優良農地の確保と有効活用が重要な課題です。

そんななか、農地の減少理由は、「非農業用途への転用」が55%、「耕作放棄」が44%にも上ります(平成25年、農水省発表)。

実は、半分近くが耕作放置が原因で農地が減ってしまっているのです!

日本の農地面積減少、食料自給率の低下といった社会問題の解決のためにはまず、ボトルネックとなっている耕作放置地問題に取り組むことが最重要課題です。

森さんは「ワタミファームでは最近、地域の農家の方から、土地の一部を譲っていただくことができました。農地というものは、代々受け継がれていたものだったり、家族みんなで大事にしてきたものだったりするので、なかなか手放したくないもの」と説明します。

「それを今回のように個人の農家さんから受け継がせて頂けるのは、10年近く地域でやってきてようやく信頼関係が生まれてきた結果だと思います。とても嬉しいですね。こうして、少しずつでも地域の農家の皆さんとの信頼を深め、企業が農業を行うということを理解してもらえるようになればと思います」(森さん)

自治体が提供する農業特区は、中山間地の耕作放棄地の活用が目的であることが多く、耕作放棄地になってしまった土地を利用し、農業を行うには大きなリスクが伴います。

人材の豊富な企業が担い手として農業経営を行うことができれば、耕作放棄地の増加問題にストップをかけられます。そうすることで、より多くの作物を自国で産出でき、食料自給率の上昇にもつながっていく――。

しかし、農家から土地を引き継ぐことができた企業はまだまだ数少ないです。今回のように農地を引き継ぐことが可能になれば、今後、企業として農業をやる大きな意味がでてきます。

■地域の有機農業従事者の情報共有・物流をスムーズに変える!

北総集荷センターの出荷の様子

北総集荷センターの出荷の様子

ワタミファームは地域や契約生産者の有機作物を集め、出荷先にまとめて納品する「集荷センター」を運営しています。自社農場はもちろん、地域の農家の方でも積極的に利用できる仕組みになっています。

この集荷センターに農産物を集荷し、人や情報、サービスなどを一か所に集約させることで、品質向上、物流をはじめとしたコストの削減、あらたな雇用の創出を図り、地域貢献することを目指しているのです。

森さんは、「多くの農家の方が集荷センターを活用していただいています。集荷センターを介して有機農業従事者同士が知り合い、色んな会話が生まれていくんですね。今までだと、どうしても家が近くだとか、昔からの知り合いだとか、何か理由がないと会う機会がなかったものです。しかし集荷センターのように、仕事の延長線上に仲間が見つけられる環境があるのはとても大事なことですね。企業である私たちにとっても集荷センターをハブにして、有機農業者の横のつながりがうまれるのは嬉しいです」と話します。

■個人農家の戦略的経営を後押しする

「集荷センターは、この時期に『何の作物を何トン、この価格で』と、出荷量や売値を契約生産者との話し合いのもとある程度決めて出荷していきます。必要以上にとれたからといってたくさん集荷したり、集荷時期を大きく変えることはできないのですが、その分出荷先が明確なので安定した収入を得られるのが魅力ですね」(森さん)

農業協同組合は、作物の種類を問わず取れた作物をその日に出荷することができる良さもありますが、売値を決めることができません。この集荷センターという新しい出荷先が生まれたことで、選択肢も増え、支出入も計算できる分、個人農家が戦略的に農業を営むことができるようになったのです。

■店舗の生ごみを質の高い堆肥に

土づくりセンターの寺島憲秋さん

土づくりセンターの寺島憲秋さん

ワタミファーム&エナジーは、農業以外にも環境事業にも取り組んでいます。例えば、外食店舗からでる生ごみから質の高い堆肥をつくる「土づくりセンター」を運営しています。

質の保障できる有機堆肥づくりの実用化に向けて取り組んでいます。

土づくりセンターの寺島憲秋さんは、「土づくりセンターを立ち上げた背景は食品リサイクルの視点であり、従来の仕組みでは、生ごみを『処理する』ために堆肥化していました。その堆肥は臭いし、ハエが集るしと、農業では敬遠されてしまったんですね。そこで発想を変えて、生ごみ由来で農家さんが欲しがる『良質な堆肥』をつくれないか研究しました。需要と供給のバランスが合ってはじめて循環は生まれるものですから。2年の歳月を重ね、全国の色々な方の協力を経て、匂いもほとんどしない、いい堆肥を作ることが可能になりました」と説明します。

「良質な堆肥をつくるのに生ごみが腐る原因に注目しました。ものが腐ってしまうのは実は『水』と『タンパク質』が大きな理由です。そこで堆肥に混ぜる前に、水分とタンパク質を分離させ、『腐らない生ごみ』をつくるのです(一次処理)」(寺島さん)

「現在、千葉県内の外食店舗で発生した生ごみと、地元の特産品である落花生のお店で出た殻などの微生物を使い、堆肥化を行っています。その堆肥をワタミファームの圃場に蒔き、有機作物を育てる、という資源循環を行っています。結果、生ごみ処理コストの削減にも繋がるんですね。これが、ワタミグループの環境活動方針である、環境(Ecology)と経済(Economy)を両立したW-ECOの考え方です」(寺島さん)

食品リサイクルは、飲食店が取り組むべき大きな社会課題の一つです。このサイクルがうまく機能していけば、生ごみ処理の新しい常識になり、飲食店と農家が連携した循環型農業をこの日本でも可能にすることができます。

<取材を終えて>

インタビュー団体Lien 小澤泰山

今回、様々なところへ取材に行きましたが、皆さん「自身の活動が少しでも地域のためになれば」という思いで温かい気持ちで活動されていました。その結果、社会問題へアプローチにつながり、ソーシャルビジネスというカタチになっているという印象でした。企業の存在そのものが社会問題の解決なのかもしれません。

今回の取材で見えてきた企業が農業に参入するメリット。農地の有効活用(耕作放棄地の防止)や、有機農業従事者のつながり形成などは、従来にはない新しい形でのアプローチにより、有機農業を持続可能なものにしている印象を受けました。日本の農業を成長させることを可能にするためには、企業の農業参入が必要不可欠なのではないでしょうか。(インタビュー団体Lien=小澤泰山)

◆後編(後日掲載)へ続きます


社会との関わりや、人や社会、地球を元気にする取り組みなどを紹介します。